力の代償  (118ページ)

土方が来た頃には火消し活動が終わりを迎えていた。建物の被害としては半焼。商売している時刻だったというのに死人が出なかったのが奇跡といえるだろう。



「これはどういうことだ?」

「どうもこうもありませんよ。見たまんまです」

「・・・とりあえず戻るぞ」



野次馬が集まっているここで騒ぐわけにもいかず。下手に新選組の名を出すわけにもいかず。とにかく屯所まで逃げることになった。



『っ!土方さん、千鶴を頼みます』



走っていた名前は急に立ち止まった。それにつられ沖田も立ち止まる。



「やっぱり痛いんだね?」

『・・・はい』



走るたびに足に激痛が走るのだ。名前が立ち止まってしまうほどの激痛が。そんな名前をひょいと沖田は抱え上げ走り出した。



『・・・沖田さん、それから一つ問題が』



名前は抵抗を見せなかったが、沖田に立ち止まるように言う。



『どうやってあそこをこえる気ですか?』

「そんなの普通に」

『俺は今、一応芸子の格好をしているんですよ?』

「あ・・・」



そんなことを話している内に門の方から大きな怒鳴り声が聞こえてきた。土方だ。思い切り新選組の名を出してしまっている。



「あの中ならどうにかなりそうじゃない?」

『・・・そうですね』



千鶴より先に帰るのは気が引けるけれど。火傷は早く冷やさないと痕が残る。鬼の血が流れている以上、どうかは分からないけれど。










『ありがとうございました』



結局、土方たちを囮として使い、沖田たちが先に屯所に帰った。



「うん、ちゃんと冷やしなよ。跡になっちゃうから」

『はい』










「こほこほっ」

『こほっけほっ』



互いに部屋に戻ってから沖田と名前は揃って咳をしていることに気付かない。

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