力の代償  (117ページ)

『ごほっごほっ・・・どこ?』



”芸子が一人いない!!”そう聞いて名前は中へ駆け込んだのだ。だが、煙で視界が霞んでしまう。よく見えない中、火の海の中を名前は走っていた。こっちではない、あっちにもいない、時々退路を気にしながら走る。早くしないと手遅れだ。



「た、たすけ・・・」

『いた』



芸子を見つけた名前は自分の裾引きを脱ぎ、彼女にかける。名前の姿を見て安心してしまったのか気絶してしまっている芸子を名前は抱え上げ、背中へ乗せた。後は来た道を引き返すだけ、なのだが―――柱が焼け落ちて道が塞がれていた。四方八方、どちらを向いても火の海で逃げ場が無い。多少無茶でもやるしかないね。覚悟を決めた名前は走り出した。少しでも遅くなればその方が危険になり、走り出すことができなくなるからだ。芸者を抱えているため普段ほどの速さは出ないが、十分な速さで中を駆け抜けた。



『ごほっ、ハァハァ・・・けほっ』

「芸者はん!!」

『大丈夫、意識を、こほっ、失ってるだけです、けほっ』



ありがとうございますありがとうございます、と繰り返す芸者に気絶してしまっている芸者を託して名前は裏口へと向かった。



『けほけほごほっ、沖田さん』

「名前ちゃん!?」



沖田は名前の姿を確認すると抱きついた。ぎゅっと腕を回し、存在を確かめるように優しく抱きしめた。



「沖田さん・・・?」



微かに沖田は震えていた。それに気付いた名前が声をかけるのだが腕に力が入るばかりだ。



「心配したんだから。もうこんなことは止めてよね」

『ごめんなさい・・・』



心配してくれたんだ。だから・・・名前も沖田の抱擁に答えるように腕を沖田へと回し抱きついた。それはまるで愛し合っているものたちがするそれのようで千鶴は見惚れてしまっていた。

しばらくして沖田が腕を緩めて名前を改めて見た。彼女の顔は墨で黒くなり、着物は焼け落ちてしまって右腕と両太股が丸見えになっていて、ところどころ赤く火傷してしまっている。



「痛くない?」

『・・・少し、痛い、です』



名前は一拍置いた後答えた。恐らく前に沖田が言った”痛いときは痛いって言うんだよ?”という台詞を思い出したのだろう。



「そっか。ごめんね」

『沖田さんは何も悪くありません。俺が・・・』



勝手にしたことです。立場の弱い、死んでしまいそうな子を助けるのは前まで当然だった。だから今回も考える前に体が勝手に動いていたのだ。


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