力の代償  (115ページ)

長州の人たちが来ることはなかなかなく、平和だった。しかし、その夜は突然やってきた。



『うーん・・・綱道さんはいなさそうだけど』

「とりあえず中に入って確認しよっ」

『うん、千鶴あわてないで』



焦っている千鶴を宥めながら名前は先に部屋へ入った。それを追うように千鶴も中へと入る。中には長州の浪士たち10数名程度がいた。彼女が探す父親の姿が無いことに千鶴はほっと安堵の溜め息を漏らした。



「おぉ可愛い姉ちゃん酌してくれや」

「そっちの綺麗なねぇちゃんはこっちだ〜」



ほとんど出来上がっている浪士たち。この様子だと簡単に情報を取ることができそうだ。



『へぇ』

「は、はいっ」



機嫌よくなってもらうため二人は酌をし始めたのだが・・・



「きゃっ、やめてください!」

「あぁ〜、お前はおえにけちちゅけんのかぁ?」



酔った一人が千鶴のお尻を触ったのだ。千鶴はその浪士から距離を取ろうとするが腰に手が回され逃げられない。



『すんまへん。この子慣れてないもんでして』



名前がすぐに庇いに入ったが時既に遅し。浪士は酔いと怒りで顔を真っ赤にさせながら刀を抜いてきた。



『千鶴、逃げるよ』



千鶴を連れて名前は走った。あの浪士のせいで話の途中で終わってしまったが大体のことは聞き出せていた。



「待てこの!!」



何人か仲間を連れて二人を追い回す浪士。千鶴と名前は必死に逃げるが、普段とは勝手が違う。着物だって男の袴に比べればかなり走りづらい。だんだん距離が近くなり、名前と千鶴はとある部屋へと逃げ込んだ。



『山崎さん!』



山崎が屋根から下りてきているのが名前には分かっていたのだ。



「追いついたぞ!!」

「諦めるんだな」



二人は山崎の背中へと身を隠すように縮こまる。



「何だお前は!」

「お、俺は・・・忍者だ!姫様がたをお守りするためにまいった」



忍者、というのがおかしかったのか名前は小さく笑い出した。千鶴は良く聞こえなかったようで首をかしげている。



「そこをどかんか!」

「どきません。姫様、早くお逃げください」

「邪魔立てすると申すか。相手になるぞ」



チキ…と刀を浪士は抜き始めた。山崎は何も構えずに相手の動きを待っているようだった。



「・・・山崎流忍法畳返し!!」

「ぐあっ」



なんと山崎は畳一畳を裏返した。その畳を相手にぶつけたのだった。



『わぁ・・・』



他にも名前と千鶴を追う浪士はいる。それに畳をぶつけただけで別に殺したわけではない。忍者と言ったのも新選組という言葉を出さないようにする為だろう。



「姫様方!早く!」



山崎に促され二人は部屋を出てまた駆け出し始めた。



「後は沖田さんに頼みます」



畳返しで気絶した浪士たちを縛り上げ、屯所へ知らせるため山崎は走った。



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