力の代償 (114ページ)
「じゃあまたな」
散々呑んだ近藤、原田、そして酔い潰れた永倉は去って行った。
「今日はあの人たちのせいで他の客は取れなさそうだね」
『沖田さんがいいますか、それを』
「ん?何か言ったかな?」
『いえ』
俺の台詞です、と言いたかったのだが沖田に黒い笑みで見つめられてしまい名前は押し黙った。
しばらくは何もなく、それなりに過ごしていた。時々呼ばれては出て。情報を探すがなかなか欲しいものは出てこない。そうして過ごしていたある時、名前だけが指名された。
「ははっ、やっぱりな。雑種の女鬼か」
『・・・何のようでしょうか』
「そう睨むなよ。俺は呑みに来ただけの客だぜ?」
『・・・お酌します』
指名したのは三人鬼の一人、不知火匡だ。銃は持っているようだが戦闘するつもりはないらしい。殺気を全く感じられない。本当に呑みに来ただけだろうか。
「俺様、なんやかんやあったけどよ、お前のことは気に入ってるんだぜ?面白いやつだって」
『・・・ありがとうございます』
「ま、だからって言ってお前らのほしいであろう情報を流すわけにはいかねぇけどな」
だけど、一つだけ言えることがあるぜ。と彼は言う。今のところ、俺のところにあの爺はいねぇ。ここにいてもきっと無駄になるだけだ、と。それでも俺は裏が取れるまでここを離れるわけにはいかない。
『・・・左様ですか』
「ま、あんなじじいどうでもいいけどよ。ところでお前を買うにはいくら払えばいいんだ?」
『俺は売りものではないので、申し訳ありませんがいくら積まれても買うことは不可能です。それにこんなところで戦闘はしたくないでしょう?』
新選組が今宵もやって来ている。沖田はそちらに参加していたし、山崎はそちらに気を取られているのだろう、気配はない。だが名前を買うとなれば別の話。黙っていないであろう者がいる。そうなれば戦闘は避けられない。
「・・・しゃーねーな。じゃあ今度来たときは覚悟しとけよ」
『あなたは千鶴じゃなくていいのですか』
「俺様は風間とは違うからな。誰とどうしようが俺様の勝手なんだよ」
・・・いつの間に俺はこの人に好かれたんだろうか。