力の代償 (112ページ)
暗い。真っ暗だ。
ここはどこ?見渡す限りの闇。どこに行けばいいのか全く分からない。
『嫌だ、嫌、だ・・・』
本能的に感じた。こんなところにいたくないと。
『なにっ、これ』
下から手が伸びてきて俺の足を掴んできた。俺はそれから逃れるために必死に走る。どっちに走ればいいのか分からないまま。前に進んでいるのか後ろに下がってしまっているのか、それさえ分からない。
『ハァ、ハァハァ…』
どこからでも手が伸びてきて。逃げ切れない。
『へっ?』
我武者羅に走っていたところに一筋の光が差す。ふわふわと飛び回って、まるでこっちにこいと言っているよう。俺は急いでその光を追いかける。手を伸ばして、もう少し、もう少し・・・
『待って、ねぇ、待ってひゃああぁぁあ』
ひゅぅぅううと限りなく、俺は落ちていった。
「・・・ちゃん、名前ちゃん!」
『沖田、さん?』
「大丈夫?魘されてたけど」
『は、い』
久しぶりに見た夢。千鶴に出会ってからは見なくなってたから油断してた。
『・・・あれからどれくらい経ちました?』
「うーん、十日ほどかな。ずっと寝てたけど」
十日。そんな長い間寝ていたのか。でもその割には・・・
『肩の傷が治りきっていない』
いくら毒があったとしても五日あれば十分治るはず。包帯を解いてみても傷口がまだ消えていない。
『っこほ』
「名前ちゃん?」
『いえ、何でもありません』
俺が咳をした時、沖田さんは驚いたような悲しそうな顔をした。やっぱり沖田さんの労咳は再発している。もしかしたら俺にも移ったかもしれない。力が無い時にずっと沖田さんが看病していたとすれば可能性がないこともない。