力の代償  (104ページ)

伊藤の亡骸をわざと道端に放置し、御陵衛士の隊士達が集まったところを隠れていた原田や永倉が斬っていく。彼らを生かしてはおけない。何故なら後に伊藤先生の恨みなどと言って新選組の脅威になる可能性があるからである。その為に彼らを根絶やしにしなければならない。また一人また一人と斬り殺していた所、乾いた銃声が鳴り響いた。



「よう人間、遊びに来てやったぜ」



不知火と天霧だ。彼らの後ろにはたくさんの浪士たちが力を滾らせている。



「薩摩の連中だな」

「不知火。てめーは長州の関係者じゃなかったか?」

「生憎、薩摩長州は仲良しこよしらしくてな」



この戦いは御陵衛士にも新選組にも予想外のことだった。まさか薩摩藩士がやってくるなんて。嵌められたと思った時には遅かった。優勢だった新選組はあっという間に劣勢に追い込まれてしまった。そんな中、この戦場に足を踏み入れたのは一番に平助それから名前と千鶴だ。雪村千鶴。鬼が自らの餌が来たことを見逃さない。



「新選組の方々に一つ提案があります。雪村千鶴君をこちらに預ける気はありませんか?そうすれば皆さんを見逃しましょう」



天霧は不況になっている新選組に一つ提案する。



「決して悪い取引ではないかと。この戦力差、戦うのはお勧めしません。雪村千鶴、この提案を受けるか否か」

『認めない。あなた方に千鶴は渡さない。子を産むだけの道具のように扱われると分かっていながら俺がその提案を受けるとでも?』

「受けるか受けないか決めるのは貴方ではない。決めるのはあくまで雪村千鶴です」

『うるさい!黙れ!!』



今にも鬼たちに斬りかかろうとしている名前を千鶴は止める。自分の為に怒ってくれるのは嬉しい。だが今の状況は千鶴の目に見ても分かるほどであった。



『千鶴!!』



名前が引き止める前に千鶴の前にこれ以上進めないよう腕を伸ばしたのは原田と永倉だ。



「かっこよかったぜ千鶴」

「後は俺達に任せろ」



「来い、こいつを渡すくらいならお前ら道連れに果ててやる」



刀と槍を浪士たちに向けて言い放つ。



「平助何してやがる!左之にばかり格好付けさせる気か!!」



永倉の叫びに目が覚めたように平助は顔を上げ、刀を抜いた。



「二人ともいつもそうだったよな。喧嘩の時はいっつもそうだ。俺の都合なんて関係なく呼んでさ」

「それはお互い様だろ平助」

「こうして三人で喧嘩するのも久しぶりだな。久しぶりすぎて腕が落ちてねーだろうな」

「左之さんたちに心配されるほど落ちぶれてねぇよ」



永倉、平助、原田は嬉しそうな顔をしながら怒涛の戦いを見せた。もちろん名前も一緒に戦う。避けては斬って、斬っては避けて。少し数が減り、話す余裕が出来たところで名前は原田に問う。



『原田さん、沖田さんはどちらに?』

「総司なら屯所だ。最近また咳してるからな」

『・・・』



今、屯所は沖田さんと羅刹隊がいる。かなり手薄な状態といえるだろう。実力が発揮されれば心配など要らないが、沖田は死病に犯されている。羅刹は使い物にならないと土方が判断したのだろう。ということは羅刹は暴走の恐れがあるということだ。



『皆さん、千鶴を頼みます』



おいっ!という言葉を聞きながら名前は走って行った。屯所が、沖田が心配だったのだ。



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