力の代償 (103ページ)
土方が編み出した作戦は伊藤を接待に誘い出し、酔っ払ったところを斬るというものだった。近藤と土方、そして屯所にいても危ないであろうという理由で連れてこられた千鶴と三人で伊藤をもてなす。機嫌よく帰っているところに何者かに背後から襲われ息耐える。背後から恨みを持つ者に襲われる。よくある話だ。
土方の狙い通り、千鳥足となった伊藤は御陵衛士へと帰る途中、新選組によって暗殺された。
伊藤さんは殺された。残りのものでは新選組に勝つことはないであろう。だからと言って俺が新選組に戻っていいのか。俺はただ助けてと言っただけ。近藤さんを暗殺したくないと言っただけである。遠くから見ていると千鶴が斎藤さんに連れて移動するのが見えた。平助と会わせて説得させるのだろう。
「千鶴?それに一君も・・・どうして千鶴がどうしてここにいるんだよ一君!なんで千鶴と一緒なんだよ!」
修羅場か。傍から見ると平助は千鶴の昔の男の人、斎藤さんが今の男の人、そして斎藤さんと平助は仲の良い仲間と見えなくもない。なんて変なこと考えてある程度したら出て行かなければ。ほら、怪しく三人を囲っている人たちがいる。気付いているのはきっと斎藤さんだけ。
「えっと、どうしても伝えたいことがあってきたの。平助君、新選組に戻って来て。お願い何も聞かずに新選組に戻って欲しいの。じゃないと・・・」
千鶴は言葉を濁した。久しぶりの再開だというのにこんなにも切ない。
「一君、どういうことだよ」
「伊藤さんは近藤さんを暗殺しようとしている。伊藤さんは薩摩と手を組んだのだ。今頃伊藤さんは返り討ちにされているだろう」
なっ、と平助は驚愕の声を上げた。そんな平助をよそに斎藤は名前にまで声をかける。
「名前いるのだろう?出てきてはどうだ?」
『はい、何でしょうか斎藤さん』
「お前はどうするつもりだ?」
『俺は、千鶴を守るべく動くまで。伊藤さんが殺されたならば御陵衛士にいる理由はありません。ですが俺を皆さんは許しますか?』
「あなた、千鶴君が女の子だということはご存知かしら?」
『さぁ、何のことでしょう?』
「とぼけても無駄よ。そこで提案があるの。あら、せっかくの茶が冷めてしまうわよ」
千鶴を女だと言いふらさない代わりに自分が新選組を抜けることになれば名前も着いてくる。そういう条件だった。自分が出て行こうと知っているのはどうせ土方たちは気付いているのだろう。ならば手土産が欲しい。そこで目に付けられたのが名前だ。名前は何事にも卒なくこなす。そして彼女を揺さぶるものなら見抜いていた。千鶴が女だと知られれば、土方さんたち新選組に迷惑がかかる。彼女の処分も考えなくてはならなくなるだろう。それを阻止する為、千鶴を守る為に名前は御陵衛士となったのだ。
「戻りたい、そういえば副長は戻らせてくれるはずだ。それに理由を話せば分かってもらえるだろう」
『・・・戻りたいです。千鶴の元に戻りたい』
「素直にそう言えばいいのだ。皆あんたの帰りを待ってる」
ありがとうございます、と名前は感謝しながら頭を下げた。千鶴の説得に平助は悩んでいるようだ。
「平助君お願い、今ならまだ間に合う」
千鶴は懇願するが、平助は御陵衛士の隊士たちに呼ばれ、走り去ってしまった。
「平助君、行っちゃ駄目ー!!」
千鶴の叫びも悲しく木魂すだけだ。そんな千鶴を御陵衛士の隊士のうちの一人が新選組の者だと気付いた。
「おいお前。見たことがあるぞ、新選組のものだな」
あっという間に千鶴は御陵衛士に囲まれるが、千鶴の側には斎藤と名前がいる。この二人は千鶴の仲間だ。
「貴様等、裏切ったな!斬れ!!」
「名前、千鶴を連れて行け。まだ間に合うかもしれん」
『はい。ありがとうございます。ではすみませんが、ここは頼みます』
「あぁ。これ以上追いかけさせはしない」