力の代償  (99ページ)

名前が伊藤に呼ばれていた頃、屯所では山崎が千鶴を呼び出していた。内容は沖田の風邪について。名前は以前気付かなかったが、沖田はまた労咳にかかっていたのだ。それにいち早く気付いたのが山崎。彼は土方に報告すべきか悩んだ。何しろ伝染病だ。こうしている間にも他の隊士に移る可能性がある。だが、それを沖田は望んでいない。いつまでも新選組にい続けることが彼の望みである。沖田の望みを山崎は理解していた。だからこそどうするべきか悩み、土方には黙っていることを決意した。だが一人では無理がある。自分がずっと沖田に張り付いているなんてことは不可能であるから千鶴を呼び出した。自分の代わりをしてやってくれと。他に医学の分かるものはいないから。



「もし俺に何かあれば沖田さんの看護をしてほしい」



一時は彼をあの有名な死病でないかと疑ったことがある。だが、実は俺もあの場にいたのだ。あの時、確かに松本先生は患っていたのは過去であり、現在は治っているとおっしゃっていた。その後すぐに覗き見していた雪村君に沖田さんは気付き、名を呼んだから俺は急いでその場を後にした。だから二人が何を話したのか知らないが恐らく口止めだろう。沖田さんのことだ。治ったし、大丈夫だから黙っていないと斬っちゃうよなんて言ったに違いない。



「他の者には頼れない。沖田さんの病気のことを知っていて医学に明るいのは君だけだ」



ついこの間、松本先生に俺は確認しに行った。労咳は再発するのかと。返ってきた返事は分からない、だった。そもそも労咳になって治ることがない。患えば、死を待つのみと言われる病気であるから死病と呼ばれるのだ。むしろどうやって治したのか知りたいと問われてしまった。



「これは隊士の病人や怪我人の治療法などをまとめたものだ。俺が留守のときはこれを見てやってくれ」

「山崎さんがお一人で?」

「いや俺じゃない。名前君だ。松本先生の補佐についたときまとめておいたと言っていた」

「そうですか・・・」



本来ならば新選組以外のものに託すわけにはいかない書物。だがこの者になら大丈夫だ。自分がいなくなってからでも十分に働きを期待できる。



「・・・私、お手伝いならいくらでもします。ですが山崎さんの代わりはできません」

「あぁ」

「その返事、信じます。頑張りますね」


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