第三衝突 【42ページ】

絵麻と仲直りしたからか、いつもの調子が戻ってきた。



「日向いい感じだ!大会もこの調子でいけ!!」

『はい!』



学校では前の旧姓である日向を使っている。先生達の配慮だ。高校で苗字を変わる子なんて珍しがられるしそれも同じ苗字の侑介がいるからなおさらだろう。



「日向、エントリー種目は問題ないな?」

『はい。大丈夫です』



今回のエントリー種目は多い。フリーの100mに200m。それからバッタの100m。個人メドレーの200mにメドレーリレーでフリー100m。私は基本的にフリーが一番速い。だからフリーだけに絞ろうかとも思ったけれど先生に言われて他のこともチャレンジしようと思ったんだ。



『もっと。もっと頑張らないと』



まだ速く泳げるようになるはずだ。自主練習をしていたらまた一番最後になっていた。



『…あ、また外、真っ暗じゃん』



家へと戻るとリビングに明かりがついていた。



「あれ名前。何だか久しぶりだね」



そういえば梓兄さんと会うのは久しぶりな気がする。椿兄さんも最近見てない。皆、仕事忙しいんだろうなぁ。



「良かった。仲直りしたんだね」

『梓兄さん、ありがとうございました』



表情を見ただけで分かる梓兄さんはよく人を見ていると思う。何かと椿兄さんもよく見てるし、双子そろってよく見てるんだよね。そういうところ、少し苦手だ。でも嬉しくもあって。



「いつもこんな遅いの?」

『大会が近いから…自主練習してたらいつの間にか真っ暗に』



大会が終われば少なくとも今よりは早く帰られるはずだ。温室プールだから外や時間を気にしないといつまでも泳ぎ続けちゃうんだよね。



「女の子一人じゃ危ないよ」

『大丈夫だよ、梓兄さん』



嘘をついた。弱事を言いたくなかったから。いや、言いたくなかったんじゃない。言い方がわからなかったんだ。弱音を吐ける人なんていなかったから。
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