第六衝突 【182ページ】
今日で高校の制服を着るのも最後になる。そう、3年間の締めくくりである卒業式なのだ。長かったような、短かったような。色々あった高校生活。幸い友に恵まれて楽しい毎日を過ごすことができた。
『もう卒業かー…実感湧かないや』
絵麻と同じ制服を着るのもこれで最後。絵麻と同じ学校で通うのもこれが最後。感慨深いような何と言うか。
「名前は違う大学だから会わなくなるな」
『和馬は絵麻と一緒だって言ってたっけ』
「おー。羨ましいだろ」
『そーだねー。絵麻に手出したら殺すよ?』
「怖い怖い。ばれないように手を出さなきゃなー」
『はははっ、和馬は見守っておくのが限界じゃない?』
「俺はそんなヘタレじゃねーよ」
いや、本気でやめといた方がいいと思うけどな。絵麻に手を出したなんて知られた日なんて、絶対に兄弟達が般若と化すだろうから。なんせこちらには弁護士もいるのだから法律上でも勝ってしまいそうで非常に怖いものである。…ま、絵麻が選んだなら誰でもいいよ。私の妹が趣味の悪い人を連れてくるわけないしね。人の事、私は言えないと思うし。そんなことを話していると卒業生入場、というアナウンスが流れてくる。静かで厳粛な卒業式が始まった。
式が終わって多くの女子が泣いてしまっている。涙もろい絵麻も例外なく。私は別に泣きはしていないけれど。
『ほら、絵麻。ハンカチで目元拭きな。今からクラス写真撮るみたいだよ』
侑介に絵麻をバトンタッチして一人になると女子の大群に襲われた。男子は学ランだけれど、チャックタイプだからボタンが無い。女子はセーラーだし、安全だと思っていた私が甘かった。
「名前君!スカーフ頂戴!!」
「私が先よ!!」
「名前君の袖口ボタンを!」
「セーター頂戴!名前君!!」
あっと言う間に制服がもぎ取られていく。確かにクラス写真は撮ってあるから問題ないのだけれど。風斗が入ってきて私の人気も落ちたと思ってけど、結構私、人気あるじゃん。
『…ありがとう、助かった』
四方八方に女子がいる状態から抜け出すのには苦労した。水泳部の後輩が名を呼んでくれて何とか脱出。制服はぼろぼろになった為ロッカーにおきっぱなしにしていたジャージを着用。
「名前先輩、ありがとうございました!!」
花束と色紙が後輩から渡される。これはかなり嬉しい。水泳部には沢山思い出が詰まっているから。嬉しかったことも苦しかったことも頑張ったことも。全てがここに集約されている気がする。
『うん。みんなもありがとね』
絵麻たちはクラスで何やら卒業パーティー的なものがあるらしく、私は一人、通い慣れた道をゆっくりと歩いて帰った。
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