第四衝突 【91ページ】

式は母と父の親族だけだから少人数だったけれど、披露宴は仕事上の人も呼んでいるから、かなりの人数になっている。そんな中でも普通に司会ができる椿兄さんと梓兄さんは仕事で慣れているのだろう。私なら緊張で吐いてる。



「名前ちゃん食べてる?」

『祈織兄さん。大丈夫だよ、ちゃんと食べてる。それより祈織兄さん、大変そうだね』

「うん…どうしてだろうね。何も特別なことなんてしてないのに」



特に兄弟達は女の人に囲まれていて大変そうだ。よくよく考えれば朝日奈家って顔面偏差値高いんだよね。でも誰一人として彼女がいるとか聞いたことがない。要兄さんは特定の一人を…って言うのは考えられないけれど。個性すぎるのかな。



「僕、本当に何もしていないんだ」

『…祈織兄さん?』



そう言う祈織兄さんの微笑みは儚くて。すぐにも消え去ってしまいそうな悲しみがあって。かける言葉が思いつかなかった。



「ごめん。今、言うべきじゃなかったよね。忘れて」



そのまま去ってしまい、私が祈織兄さんの近くにいなくなったことにより、また祈織兄さんの周りには沢山の女の人が集まった。



『何だったんだろ、今の』



私のそんな呟きは人込みにかき消された。





「続いては、花嫁によるブーケトスです」

「ほらほら近づいてー★」



いつの間にか式の終盤に差し掛かっていた。私はブーケトスには興味なかったのだけれど、女性の方は前へどうぞーと係りの人に向かわされる。



『絵麻は欲しい?ブーケ』

「せっかくだから、という意味では欲しいかな。誰かとっていう訳じゃないけど」



気づいたら絵麻も隣にいた。女性の軍団の後ろの方で構えていれば、まずは飛んでこないだろうと思っていた。思っていた、のだけれど。



『え?』



パサッと私に向かってブーケは落ちてきた。お母さんの方を見ると、すごくいい笑顔で舌をペロッと出している。…謀られた。



「おめでとう!次の花嫁は君に決定★俺予約入れちゃおっかなー」

「椿、そういうのは今度にしようね」

「えー、今度っていつー?」

「はいはい、そこまでにしておこうね」



えー、私より絵麻の方が先だと思うんだけど。絵麻の方を見てみればいい笑顔でパチパチと拍手を送っている。半分は絵麻に分けてあげよう。せっかくだし。いつの間にか椿兄さんと梓兄さんは司会から降りていて兄弟全員揃っている。



「こんな場所で何だけど」

「むしろこんな場所だからこそ」

「僕たちの気持ち受け取って」



せーのっと弥君が合図して。



「「「「「朝日奈家へようこそ」」」」」
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