第四衝突 【85ページ】

その帰り道、駅のところで見知った顔を見かける。金髪美男と長髪美女の私のキョーダイ。確かに、見た目だけならいいと思うけど。雑誌の取材なのかカメラを構えられている。……うん、他人のフリしよう。素通りしようとしたときだった。



「あら、妹じゃない?」

「ほんとだ。おーい、妹ちゃーん」



そんな声が聞こえてきて。無視して早歩きで前に進んでいたのだけれど、名前を呼ばれてしまって、つい『名前を呼ばないでください!!』って言っちゃった。



「何だ聞こえてるじゃない」

「名前ちゃん、こっちこっち」



すっごく顔をしかめながら二人に近づくとカメラを持った人が話しかけてくる。



「君、この夫婦の義妹?可愛いね。写真一枚どう??」

『へ?あ、いや、私は…』



ぐいぐいカメラマンの人にさえ引っ張られて、強引に要兄さんと光兄さんの間に入れられた。



「はーい、笑ってくださーい」



パシャパシャとシャッターを切る音が鳴る。私はカメラを向けられて、一生懸命笑ったけれど、多分、苦笑いか引きつり笑いになっていたと思う。



「羨ましいね〜、君。こんな綺麗なお姉さんとお兄さんがいて」

『あははははー』



カメラマンから解放されたころには私はぐったりしていた。



『夫婦ですって。要兄さん、光姉さん?』



巻き込まれたんだ。もうどうでもいい。無駄に”姉さん”を押して言ってみた。



「あんた結構いい性格してるのね」

「妹ちゃん、いつもと雰囲気違うね。どうしたの?」

『あははー、それはほめ言葉として受け取っておきますね光兄さん。椿兄さんと梓兄さんのイベントに行ってきたんです』



この美顔たちが近づいてくると、結構迫力あるんですけど。っていうか二人してじーって見つめないでください!



「可愛いねー♪」

「いいんじゃない?」

『ありがとうございます』



何だか今日は疲れる日だな。そう言えば光兄さんはどうして日本にいるんだろう。誰かがイタリアに住んでるって言ってなかったっけ。



『光兄さん、どうして日本に?』

「あぁ。あんたらにお届け物があってね」



ほら、と手に持っている荷物を掲げる。それはそれなりの大きさがあって、同じものを要兄さんも持っている。



「家に帰ってから開けてみな。じゃ、私、仕事あるから」



そう言って彼女、いや彼は私に持っていた荷物を私に押し付けて、そのままスタスタと去って行った。



『…なんですかアレ』

「まぁひーちゃんだからね」



…変な人。

部屋に帰ってから開けてみると、中にはドレスや靴、ネックレスや髪飾りが入っていた。そして一通の手紙。”麟太郎さんと一緒に選びました。娘のためにドレスを選ぶ楽しみをくれてありがとう”どうやら絵麻のものとは色違いらしい。私は濃い色の青いドレス。絵麻は淡いピンクのドレス。よく見れば、微妙にデザインは違うけれどパッと見ではただの色違いでしかない。



『こっちは絵麻に渡しておこう』



サイズはどうなのかと試着してみたら驚いた。なんとピッタリだったのだ。お父さん、私たちのサイズ知ってたんだ。そんなこと無頓着だと思ってたし、自分の服は自分で買っていたから知らないと思っていた。



『お父さん、結構私達のこと見てるんだ…』



お父さんが本当のお父さんじゃないと知って、距離を取り始めたのは私で。そんな私を気にしながらも、何も知らずに甘えてくる絵麻ばかりお父さんは見てると思ってた。私はどうすればいいか分からなかったから。それに”お姉ちゃん”だから絵麻にお父さんを譲ろうと思っていた。だから、つい強がっちゃうのかな。皆に、お父さんに、絵麻に、心配させないように。
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