第三衝突 【78ページ】
夏休みも終盤、部活から帰ると棗兄さんがやってきていた。
『ただいま。それといらっしゃい棗兄さん』
「おっかえりー★」
「おかえり名前」
「あっれー、棗と名前って知り合いだったの?」
「この前偶然会ったんだよ」
『そうそう。マンションの前でたまたま会ったんだよね』
余計なことは言わないでとでも言うように私は”たまたま”と”マンションの前”を強く言った。午前練習で早く帰れたものの、お昼はとっくに過ぎていた。
『兄さんたち、もうお昼食べたよね』
もう2時前だし。今から何か食べるにしても体にあまりよくなさそうだしなぁ。よし、お菓子でも作って食べよっか。パパッと作っちゃお。私と、椿兄さん、梓兄さん、棗兄さんの分でいいかな。絵麻と侑介は補習で帰ってこないだろうし。まぁ多めに作れば問題ないよね。
「名前、何してんの?」
『お菓子作り。棗兄さんも食べるよね?』
「あぁ、サンキュ」
「あっ、じゃあさ!それかけてダーツ勝負しようぜ!」
そう椿兄さんが言った途端、棗兄さんは顔を顰めて梓兄さんは、はぁ…とため息を吐いていた。
『んー、1位はドリンク+お菓子で2位がお菓子?3位は何もなし?』
「うん。それでいいんじゃないかな」
『じゃー頑張ってねー』
私に害がなければ何でもいいし。私は三つ子との会話をやめてせっせと丸め始めた。
完成と共に順位が決定したらしい。1位は梓兄さん、2位は棗兄さん、3位は椿兄さんだ。
『梓兄さん、何飲む?』
「じゃあコーヒーをもらおうかな」
『はーい。ちょっと待っててね』
うるさく騒いでいる椿兄さんは放っておこう。
『はい、梓兄さん』
ある程度綺麗に盛り付けたお皿とともにコーヒーを梓兄さんの前に置く。それから棗兄さんの前にもお皿を置いた。
「ありがとう。これはみたらし団子?」
『うん。超簡単なやつだけど。味は大丈夫なはず』
私が作ったのはみたらし団子。お腹すいてたし、何かお腹にたまるものがいいなと思って。
「いいなー梓。俺も食ーいーたーいー」
「梓、お前が甘やかすからだぞ」
「そんなつもりないんだけどな」
「無自覚かよ…」
三つ子の話を聞いているととても面白い。仲が良いんだって伝わってくるし。梓兄さんのあんな笑顔も初めて見た気がする。
「ほら、椿。一口あげるから」
「やっりぃー♪あーん」
「お前ら目の前でいちゃつくな」
「いい加減慣れればー?生まれたときから見てるんだし」
「名前もいるんだぞ?」
『いいよ。もう見慣れた』
この家に住めば誰でも慣れると思う。っていうか慣れないとやっていけない。いつもこんな感じなのだから。
『棗兄さん。はい、あーん』
「へ?あ、あぁ」
遠慮がちに開いた口の中へ団子を運び込む。梓兄さんもこうして椿兄さんにこうして団子をあげてたし。でも自分のお皿の方へ向かうと何やら視線を感じた。
『ん?どうしたの椿兄さん、梓兄さん』
「ずっりぃぞ!棗!!」
「そうだね。棗のくせに」
「棗のくせにって…酷い言われようだ」
「ねぇ、名前。僕にもそれして欲しいな」
「俺も俺もー★」
いつの間にか目の前にいたはずの椿兄さんと梓兄さんが私の隣に移動していた。自分の分のみたらし団子食べたいんだけど。でもこのまま何もせずにしていたほうが面倒だろうし。
『はい、椿兄さん。あーん』
結局4人で団子を食べることになり、余っていた団子も3人が食べてくれた。
棗兄さんが洗い物を手伝ってくれて、すぐ終わった。そしてその後、ふと疑問に思ったことを問うてみた。
『棗兄さん、今日はどうしたの?』
私が知る限りでは、棗兄さんが家に来たのは初めてだ。だから何か用があったのだろうと思った。
「あぁ、椿の奴に暇だからって呼び出されてな。それとほら。ゲームのサンプル。また感想聞かせてくれ」
『ありがとう棗兄さん』
絵麻と後で一緒にプレイしよーっと。棗兄さんがゲームを渡しているのを見て、双子がニヤニヤしていたのは気付けなかった。
『またね棗兄さん』
「あぁ、見送りサンキュ」
棗兄さんにぽんぽんと頭を撫でられる。朝日奈家の兄弟達によくされてる気がするんだけど。子供扱いされてるのかな?まぁ悪くないかなって思ってる私は頭を撫でられるのが好きなんだろう。
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