第三衝突 【75ページ】

玄関口に行くと椿兄さんはもう待っていた。



『すみません、待ちました?』

「ぜーんぜんっ★名前、ちょーかーい!」



今までなら抱きつかれていたと思う。けれど投げられると思ったのか、直前まで広げられていた手は元に戻した。



『大丈夫です。寝ぼけている時以外は背負い投げなんてしませんから』



そういえば、また抱きつこうとするのでさすがにそれは払っておいた。



「で、どこ行くのー?…って何その驚いた顔」

『いや、椿兄さんが行きたい場所でいいやって思ってたから。どこでもいいなら、映画館でいい?観たいやつが今上映されてるんだ』

「名前、失礼すぎっ!でもいいや!オッケー★」



あっさり行き先は決まり、駅前にある映画館へ。



「名前が観たいのってどれー?」

『えーっと………これです』



私が選んだものはスポーツアニメもの。サッカーが題材なんだけど、和馬がおもしろいから観てみろっていうから見ようと思って。それに椿兄さんと梓兄さんも出てるみたいだし、一度観てみたかった。



「俺らが出てるからー?俺の妹ちょーかーいー★」

『ちょっと、ここでは目立つので止めて下さい』



ベリベリと引き離して、チケットを買おうと列に並べば止められる。



「名前はポップコーンとドリンク買ってきてくんね?」

『私が誘ったんだし、私が払うよ?』

「だから半分!俺はチケット代を出すからポップコーンは買ってくれよ、な?」

『…分かった』



多分、これ以上言っても無駄だと思って大人しく従う。私が誘ったんだから当然のように私が払おうと思ってたのに。後から聞けば、妹に奢ってもらう兄なんてダサいだろ!という答えが返ってきた。椿兄さんらしいっていうか、なんていうか。この兄弟たちは私達を大事にしすぎだと思う。確かに妹かもしれないけれど、お小遣いもらってるし、お金がないわけじゃないのに。まぁ、それを他にまわせるから助かるんだけどね。



『おもしろかったね!椿兄さんも梓兄さんもすごかったし!!』



椿兄さんは主人公のライバル、梓兄さんは主人公の兄弟役でとても良い役どころだった。



「ありがとー名前★そういえばさ晩飯どうすんの?どっか食べに行かね?」

『え、でも…』

「いいからいいから★んじゃレッツゴー★」



椿兄さんに連行されるようにつれてこられた場所はオシャレなカフェで。少しレトロっぽさがいい感じな雰囲気を演出している。



「名前ー、何食べるー?」



メニュー表を私の方へ向けながらそう聞いてくる辺りなんだか上手だなって思う。



『んー、オムレツ』



ふわふわトロトロオムレツって最高だよね!?邪道だなんていう人もいるけれど、私はこれが大好きだ。絵麻の作るオムレツは正にそれで。彼女以上のオムレツを私は知らないと言っていいほど。



「じゃあ俺もそれにしよーっと」



あっという間に椿兄さんは注文を済まして、私と椿兄さんの目の前に美味しそうなオムレツが置かれる。



『「いっただきまーす」』



そこのオムレツは絶品だった。ぱくぱくと調子よく食べ終え、デザートにまで手を出してしまった。



『ごめん、椿兄さん。ちょっと手洗い行って来る』



離れたのはその一時だけだったのに、戻ってきて会計しようとしたら先に払われていた。どうやら椿兄さんには私は敵わないらしい。悔しいけど。
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