第三衝突 【68ページ】


椿兄さんと梓兄さんに連れられた場所は先程までいた島が一望できる少し高くなっている丘だった。海も綺麗に見える。普段なら見えないような青くて白い波を立てる海が。



『綺麗…連れてきてくれてありがとう椿兄さん、梓兄さん』

「っだろー?だから連れてきたかったんだ★」

「よろこんでくれたのなら何よりだよ」



私と椿兄さんと梓兄さんの三人だけの空間が出来上がった。頬を撫でる風が気持ちよくて、何だかすごく贅沢な気持ちになる。座って眺めていると、段々眠たくなってくる。昨日まで部活で大変だったからかな…地面の冷たさを感じながら私の瞼は落ちていった。





―――これは中学生の時の話。思春期という言葉が似合うようになってきて。好きだの嫌いだの、恋しただのという会話を女子の中でよくするようになっていた。女友達も男友達も多かった私は毎日毎日いろんな人たちと遊んでいた。でも何となく男友達との方が遊ぶことが多くなっていた。羨望が嫉妬に変わるのはすぐで。



「ねぇちょっと」



そう呼び出され、体育館裏へ。何も思わずにノコノコ行った自分も悪いのだろうけど。その場には5、6人の女子が待っていた。



「この子あんたのせいで彼氏に振られたんだけど」

『は?』

「鈴木涼太だよ」



あぁ、涼太ね。よく一緒にバレーしている。それと何の関係があるのだろうか全く分からない。



「この子を振った理由があんたのことが好きだからって言ったの!!」



え。そんなこと知らないんですけど。



「あんたが仲良くしすぎたせいよ!!人の彼氏に!!」



えー…。要するにこの子は私が涼太を誑かしたって言いたいのだろう。私としてはただ遊んでただけなんだけど。女の子って、めんどくさい。。。

その時からだった。私は女友達を作らなくなった。もういざこざは面倒だったから。



『女って………』



私の目一杯に広がる梓兄さんの顔。



『!!??』



目が覚め、頭がいまいち覚醒しないがままに私は立ち上がる。パサッと落ちる私のものじゃないパーカー。私、岩にもたれて寝てたよね?



『なっ、何で!?』

「目が覚めた?岩にもたれたままじゃ辛いだろうと思ってね」

『あ、ありがとう』



落ちたパーカーを拾い上げる梓兄さん。寝てたからかけてくれたのかな。何だか悪いことしちゃったかも。



『重かったでしょ?』

「ううん。軽すぎるくらいだよ」



嘘だ。頭だけだといってもそんなに軽くはない。それに島に来た時はお昼時だったのに、日は傾いて、海が赤くなっている。胡坐をかいている脚の間にいれば辛いと思うのだけれど。



『椿兄さんは?』

「椿なら向こうで泳いでるよ。もうそろそろ帰ってくるんじゃないかな」

『梓兄さんも泳ぎたかったよね。ごめん』

「いいのいいの。気にしないで。寝顔すっごく可愛かったし」

『か、からかわないでよ』



梓兄さんは滅多に冗談を言わない人だ。だからこそ本心で言っているのだと思うと、少し、いや、かなり恥ずかしい。咄嗟に誤魔化してしまった。



「でもそれだけじゃ……って言うなら」



私にそっと梓兄さんは近づいてきて、頬に暖かい感触を残して離れた。



『あっ、梓兄さん!!』

「うん、やっぱり可愛い」



何なのこの兄たち。心臓に悪いんですけど。
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