第三衝突 【63ページ】

数日もすれば全国大会がやってきた。これまで勝ち抜いてきた人がここに集まっている。さすがに今までと気迫が違う。日本の高校生の1位を決める大会だもん。



『…よしっ』



ぱちっと両頬を叩いて気合を入れ直して。間のなくしてフリーの100と200が始まった。水に抗うな。水を活用するんだ。上手に使ってあげれれば、水は何の抵抗もなく受け入れてくれる。走るのは好き。でも泳ぐのはもっと好き。

いつだったか、私が水泳を始めたのは。小学生の低学年の頃だったと思う。お父さんは経験になるからといって色々な習い事をさせてくれた。水泳はもちろん、体操や空手、ピアノまで様々。まぁピアノとか書道とかじっと座っているのって苦手だからすぐ止めちゃったけど。体操をやっていたおかげで大分体は柔らかいし、空手をしていたおかげで強さには自信がある。でもその中で一番私に合っていたのが水泳だった。色々泳げるようになるのが楽しくて、早く泳げるようになるのが楽しくて。一生懸命努力した。中学生になって水泳教室は辞めたけれど、水泳部に入って毎日毎日泳いだ。高校生になっても水泳だけは辞めずに部活動をしてきた。

だから今。今こそ結果を出すときなんだ。わぁぁ…という声とほぼ同時に私の手はプールサイドをタッチしていた。全ての出場者が泳ぎきってから速い順に順位が発表される。だから今、ここで1位になっても意味がないんだ。夕方、全てのレースが終わり、今日泳いだ全ての結果が電子掲示板に掲示される。



『…っ、負けたぁ!!』



フリーの100は7位、200のほうは5位と、10位内に入ったため表彰はされるが、結局は、まぁ、それだけである。悔しい悔しい悔しい。明日こそ。メドレーのある明日で勝ってやる。そんな思いを胸に全国大会初日は幕を閉じた。
そして全国大会2日目。今日は個人メドレーの日。だから私も個人メドレー200を泳ぐ。けれど。電光掲示板に表示された文字は虚しくも”日向名前 4位”という結果だった。



『っ…』



結果は、十分に出ていた。自己ベストを更新した。けれど3位内には入ることができなかった。これが全国区だと思わされる。去年もそうだった。去年は結局フリーの100で何とか9位に食い込んだだけだった。悔しいという感情だけが心の中で疼く。必死に練習した。毎日遅くまで泳いだ。けれどそれを嘲笑うかのように3位内には入れない。顔を振ってネガティブな心情を追いやって、最終日のリレーに集中することを決意した。
全国大会最終日ということで観客も多い。ちなみに。



「名前ー!!」

「おねーたーん!!」



兄弟が応援に来てくれた。大きく手を振る椿兄さんと弥君。その隣にいるのは雅臣兄さん。そして遠慮がちに手を振っている絵麻とその隣にいる要兄さん。どうしよう、要兄さんだけ殴りたい。絵麻に余計なちょっかいかけてるし。手を振って応援してくれる家族に私も手を振り返して、もうそちらを振り向くことはなくレースに集中した。

メドレーリレーは当然仲間との連携が大切になってくる。下手をすれば反則になってしまうし、かといってゆっくりスタートしてしまえばタイムロスとなる。一瞬で、飛び込みで全てが決まるといってもいいほどだ。いよいよ都立陽出高校水泳部と名を呼ばれ、一番初めのバックの選手がプールの中へと入る。合図とともに潜り込む。私はバックのこのスタートが苦手だからすごいなぁと本当に関心する。バック自体は泳いでいるの楽しいけれど。空が見えて。そんなことを考えている間にも選手は泳ぎきっていき、ついに今、泳いでいる人がこちらに着けば私が泳ぐ番となった。



『ふー……』



深く一度だけ深呼吸してパチンとゴーグルのゴムを引っ張る。そしてタイミングを見計らって私は水の中へ飛び込んだ。何だか、泳いでいるというのに心が穏やかで。すっごく余裕を持っていた。



「お姉ちゃん!頑張って!!」

「名前ー!!」

「名前ちゃん!!」



みんなの応援の声が聞こえてくる。それが私の力になって、ひとかき、ひとかきが速く感じる。

そして私が潔く辿り着いたその先は―――都立陽出高校水泳部現状1位という電子掲示板だった。
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