第三衝突 【59ページ】
世の中の学生はもう夏休み。そういえば、と雅臣兄さんが呟いたのが始まりだった。
「成績表を見せてもらってもいいかな?」
朝日奈家では学生組は成人組に成績表を見せて、悪ければ強制補習が行われるらしい。えぇー…。どうしよう、絵麻より私、馬鹿なんだけど。どうやら年齢順で見せるのが決まりらしい。
「昴は相変わらずだね」
「もう少し勉学に力を入れてもらえればいいのですが」
バスケ一筋の昴兄さんはそこまで賢くはないようだ。ただスポーツの面で飛び抜けている。だからものすごく馬鹿でない限り問題ないのだろう。
「あー、祈織は相変わらずだね」
「えぇ、このまま頑張ってください」
やっぱり祈織兄さんは賢いみたい。通っている高校からしても別格だもん。祈織兄さんはその中でも良い成績で。受験生、頑張ってるなぁ。
「次はお姉ちゃん?」
『え、あ、そっか。侑介より私達の方が誕生日早いもんね』
絵麻より賢くないし、祈織兄さんの後だなんてすっごく嫌だけど。
『はい、どうぞ』
じっと見られて、すごく恥ずかしい。こんなことならもう少しくらい勉強しておくんだった。
「名前さん」
「名前ちゃん」
『はい…?』
どきどきしながら言葉を待つ。ゴクッと唾を飲み込み、緊張感が高まってくる。
「意外と賢いんだね」
言われた言葉は予想と違ってほっと安心した。
「えー、マジで?見せて見せて★」
成績表を見た人の反応によって、皆が私のものを覗き込む。
「うわっ!まじかよ!!」
「嘘だろ…!?」
「学年順位13位…!?」
驚愕する椿兄さんと侑介と昴兄さん。ひっどいなぁ。っていうかすっごく失礼なこと言われてる気がするんだけど。
「名前、お前、いつ勉強してたんだよ!」
『え?特に何もしてないよー。いつも課題だけ終わらせて遊んでるし』
そうテスト勉強なんてしたことがない。しいて言えば、教科書を二、三回くらい読むだけだ。それでテストの点はある程度取れる。侑介は驚愕の表情を浮かべながら真っ青になってる。
『侑介?どうしたの?』
「いっ、いや…名前も俺と一緒だと思ってたからよ」
『ふーん』
侑介はきっと頭が弱いんだろうな。私と一緒にテスト前にゲームをしていた時点で何となく気づいてたけど。
「じゃあ次、絵麻ちゃん」
「はっ、はい」
絵麻は相変わらず成績優秀者で。学年順位2位だって言っていた。
『次、侑介だよ』
「げ」
侑介の成績表を見た途端、右京兄さんの表情が変わった。まるで般若みたいだ。
「侑介〜?」
「侑介…」
恐怖を植えつけられそうな右京兄さんの隣で哀れみの視線を送る雅臣兄さん。そんな瞳で見られたら心が折れてしまいそうだ。
「あーあ。また侑介やっちまったの?」
椿兄さんは椿兄さんで笑ってるし。でもそんな椿兄さんを梓兄さんがバシッと叩いている。
「椿も補習組だったでしょ」
やっぱりと言うかなんと言うか、椿兄さんは賢くなかったみたい。隣では侑介が涙目になりながら右京兄さんに怒られている真っ最中だ。しばらくして、侑介の強制補習が決まり、最後に弥君の番となった。
「弥はよく頑張ったね」
小学生のときってたいして悪い成績をつけられないよね。確か。こうして侑介の強制補習が決まり、成績発表は終了した。
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