第三衝突 【58ページ】
翌日、絵麻だけでなく他のキョーダイたちも連れてお母さんたちのお墓へ向かうことになった。挨拶したいそうだ。いつも通りの駅で降りて、お花屋さんに寄る。
「あら名前ちゃん。今日は大勢ね」
『久しぶり、おばちゃん。いつも通りよろしくね』
すっかりお花屋さんのおばちゃんとは仲良くなってしまった。小学生の時から通っているからそりゃ話すようにもなる。もちろん花はお墓に飾るためのものだ。一ヶ月に一回だけだけど、何もないのは寂しいもんね。
「はいよ。これでいいかい?」
『ありがとうございます』
丘の上に上ればたくさんの石墓がある。その一つが私達の両親の墓だ。
『お父さん、お母さん。久しぶり。今日は家族を連れてきたよ』
いつものように冷たい石に話しかける。当然、返事はないけれど。独り言のように呟くんだ。
「お、お父さん。お母さん。初めまして…」
絵麻が挨拶し始めたのを聞いて、私は墓を綺麗にするために水を汲みに行った。もう絵麻は大丈夫そうだな。ちゃんとお父さんに連絡しておかないと。絵麻に全て話したこと。皆でお墓に行ったこと。バケツに水を持って戻ると雅臣兄さんが両親に向かって話しかけていた。
「この子達を生んでくれてありがとうございます。まだ馴染めきれてはいないようですが、二人とも大切なの僕達の家族です」
嬉しかった。大切な家族って言ってもらえて。
『お母さん、お父さん。今から綺麗にしてあげるね』
水をかけてゴシゴシ擦ってやる。汚れが落ちるように強く、でも優しく。
「僕にもやらせて」
『どうぞ、梓兄さん』
そんな楽しい作業という訳ではないのだけれど、梓兄さんだけでなく兄弟みんなで手伝ってくれる。
「お姉ちゃん。線香代えるね」
『うん、お花も添えてあげて』
いつも私が全部してたから他の人にやってもらえればお母さんたちも新鮮だろう。
『じゃあまた来るね。お父さん、お母さん』
別れの言葉を告げて、皆で来た道を引き返していく。
『絵麻、来月から一緒に来ようか。お父さんたちも喜ぶよ』
「うん」
次からは一人じゃない。絵麻と一緒なんだ。そう思うと今までよりも足取りが軽くなった気がした。
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