第三衝突 【55ページ】





「すみませんでした。心配掛けて」

「うん、心配、した。でも、無事なら、問題、ない」

「でも何があったのだ?話してくれ、ちぃ」



絵麻の無事を確認して安心した私は未だに一言も話すことなく絵麻とジュリ、そして琉生兄さんの会話を静かに聞いている。光兄さんはいつの間にかいなくなっていた。



「…うん、これなんだ」



チラッと私を見て、鞄を漁る絵麻。そうして一枚の紙を取り出した。私の予想通りのものを。



「ジュリもお姉ちゃんもびっくりしちゃったよね。まさかパパと血が繋がってなかったなんて」



そう言われるけれど、前から知っていた私とジュリは気まずくて顔を絵麻から外す。



『ごめんね、絵麻。私、ずっと前から知ってたんだ』

「えっ………?」



その真実を知ったのは偶然だったけれど、黙っていた私に責任がある。



『絵麻、聞いてくれる?私は……』





それは小学二年生の時だった。いつも通り夕食を食べて、お風呂に入って。ただ違うことは珍しくパパがいたことだった。仕事の空き時間で家に帰ってきてくれたんだ。



『…ん、トイレ………』



布団へ入り、しばらく眠っていた私はトイレに行くために起き上がった。隣で眠る絵麻を起こさないように静かに起き上がり、トイレへ向かう。その途中、パパの声がした。



「お前達の子供ももう小学生になったよ。羨ましいだろ?とても可愛いんだぞ」



リビングのテーブルでビールを飲んでいるパパ。顔は真っ赤で大分酔っているようだけれどパパは写真を眺めながら話している。その言葉は小さい私でもなんとなく理解できた。



『…パパ?それってどういう、こと?』

「名前!!」



パパはどうやら私に気づいていなかったようで、ものすごく驚いて、危うくビールを零すところだった。



「………さっきの言葉、聞いてしまったようだね。まだ話すつもりはなかったのだけれど」



少し言い淀んで写真を見せながら私に真実を述べていく。



「名前と絵麻は正真正銘双子の姉妹だよ。だけど僕の子供じゃない。君達は僕の大学の後輩の子供なんだ」

『えっ…?』

「本当の親の苗字は氷見。二人が2歳の時にお父さんは事故に遭ってしまってね。母親もその後を追うようにして死んでしまったんだ。二人が孤児院に入れられると聞いて、僕が引き取るといったんだ。その後輩とは仲がよかったし、君達にも何度か会っていたからね」



君たちがバラバラになってしまうんじゃないかって思ったんだ、と付け加えた。



「…絵麻にはまだ言わないでくれるかい?大きくなったらきちんと話すから」



言葉の意味を半分も理解できないままパパは寂しげに笑って、私に寝るよう促した。パパは本当のパパじゃない?実はただの赤の他人だったの?分からない。何も分からない。小学生にその事実は重くのしかかって。

翌日の朝からはパパとの関わり方が分からなくってよそよそしくしながらも、絵麻の手前、最低限の態度で接する。



『パ…ねぇ、お父さん』



その時からだった。私がパパではなくお父さんって言うようになったのは。本当のお父さんじゃないって知ってしまったから。

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