第三衝突 【53ページ】

「ほら、早くお風呂入ってきな。いくら夏だからといっても風邪引くわよ」



光さんに促されるままにお風呂に入る。お風呂から上がると脱衣所には服の準備がされていた。どうやら私の着ていた服は乾燥機に回されているらしい。



「すみません。何から何まで」

「いいよ。妹なんだから。で、何があったの?」

「………私、いらない子、だったのかも、しれません」



生まれてきて17年。ずっと知らなかった事実。私は鞄の中にしまい込んだ戸籍謄本を光さんへ見せる。父である麟太郎との関係の欄を指差して。



「今までパパと思っていた人は本当のパパじゃなくて。本当のパパとママからしたら私はいらない子だったんじゃないかって」



静かに光さんは私の言葉に耳を傾けてくれる。



「パパは美和さんと結婚すると決めてから会いにきてくれないし。やっぱりいらない子だったんじゃないかって」



ただ唯一私を救ってくれたのはお姉ちゃんだ。お姉ちゃんとの双子という関係は事実。そう書いてある。



「…すみません、やっぱり私、帰ります。これ以上、皆さんに迷惑かけたくないです」



どこにも私の居場所なんてない。ううん。お姉ちゃんの隣にしか居場所はなかったんだ。



「待ちな。あんたはいらない人間なんかじゃないでしょ」



玄関の方に走りかけたけれど、腕を掴まれてしまって、光さんの元へ戻ってしまった。初めて聞く男の声に驚いたけれど、それよりも”お前はいらない人間じゃない”って言われて安心した。



「あんたはもう朝日奈家の一員なんだから」

「…っ、ありがとうございます」

「泣きたいだけ泣け。ほら、胸貸してやるから」


私はもう流れ出る涙を止めることができずに光さんの胸で泣き続けた。



「今日は泊まっていきな」

「…はい」



もう外は真っ暗で。一人で歩き回るような時間ではない。



「いい?あんたは朝日奈家にとって必要な人間なんだ。あんたのことが皆大切なんだよ」



その日はあまり眠れなかったけれど、頭の中の混乱は収まっていた。
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