第三衝突 【50ページ】

…眠れない。頭の中には絵麻のことばかりが出てきて。とてもじゃないけれど眠気なんて襲ってこなかった。



『のど、渇いた』



どうせ眠れないのなら課題でもしようかな。なんて考えてリビングへ行くと昴兄さんが柔軟をしていた。



『昴兄さん、まだ寝ないの?』

「名前か。あぁ…」

『絵麻のこと心配ですか?』

「なっ!?そんなんじゃねぇよ!!」

『はいはい、真っ赤な顔で反論しても説得力ありませんよ』



頬を赤く染める昴兄さんを横目で見ながら私はお茶を取り出す。



『昴兄さんも何か飲みます?ホットミルクでも用意しましょうか?』

「頼む」



二人分のホットミルクを作って、テーブルにマグカップを置いた途端、私の腕を彼は掴んだ。



「なぁ、お前は」

『何ですか?』

「お前は心配じゃねぇのか?あいつのこと…」



平然を装っていたのに。大丈夫なように装っていたのに。昴兄さんのその言葉に全てをかき消されていく。



『そんなわけない!!心配しているからこうやって眠れなくて、不安で、私のせいでって落ち込んで、自分を責めて………!!』



こんな事がいいたいわけじゃない。けれど爆発してしまった感情はもう止められなくて。昴兄さんが悪いわけでもないのに怒鳴ってしまった。彼に八つ当たりしてしまった。



「お、落ち着け名前!!」



気が付いた時には彼の胸の中にいた。状況がつかめない私に昴兄さんは優しく呟く。



「悪かった。俺が悪かったから。泣かないでくれよ…」



そう言われて始めて自分が泣いていたことに気づいた。恥ずかしくて、私は自分の手でごしごし目を擦る。



「あっ、こら」



パシッと腕を掴まれてしまって恨めしそうに彼を睨んでみる。



「真っ赤になるだろ…」

『っ!!//』



そう言われて優しい手つきで涙を拭われれば至近距離に昴兄さんの顔がある。彼は真剣で気づいていないのかもしれないけれど、もう鼻と鼻がくっつきそうなくらいに近い。



『昴兄さん…離して』

「え?わ、悪い!!」



やっぱり彼は気づいていなかったみたい。それくらい真剣になってくれてたんだろうけど、恥ずかしかった。



『…ありがと、昴兄さん』

「何が?」

『励まそうとしてくれたんでしょう』



昴兄さんは不器用なんだ。彼は不器用で優しい人なんだ。やっと分かった気がする。自室へ戻り、ベッドへ寝転ぶと先程よりは不安が取れているような気がした。
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