第三衝突 【49ページ】


『絵麻が帰ってこない!?』



その知らせを聞いたのは部活を終えて帰宅しようとしていた時だった。朝日奈家の兄弟から着信がたくさん入っていたから何かあったのだろうと思ってはいたけれど、まさか絵麻に何かあっただなんて。



『どういうことですか?雅臣兄さん』

「分からないんだ。今、兄弟で探しているんだけ―――」



まだ話していた雅臣兄さんの電話を切って私は駆け出した。

学校から家までの道程、絵麻が寄りそうなお店なども全部入っていないか調べる。けれど彼女の姿はなくて。私の心に不安が広がる。絵麻にもし何かあったら―――!!必死に走って、必死に叫ぶ。それでも彼女は見つからない。雨に濡れても気にせずに私は走り続けた。そして



『…もう、家、だよ』



結局、学校からの道程で絵麻は見つからなかった。考えろ、考えろ。絵麻がどこに行くのかを。双子なんだから分かるはず。家族なんだから分かるはず。…家族?その言葉に引っかかりを感じた私は右京兄さんに電話する。



『もしもし、右京兄さん?聞きたいことがあるのですけど―――…』



私は一人、近くの公園のベンチに座り込んでいた。絵麻は知ってしまったんだ。自分が養女だってことを。簡単なことだ。きっと一人ぼっちだって思って、一人で泣いている。それは分かっているのに居場所が分からない。



『…お姉ちゃん、失格、かな』



でどうすればよかったの?私も知ったのは偶然だ。お父さんに秘密にするように言われてしまえば、黙っておくしかない。



『お父さん…』



何度か絵麻に真実を告げるチャンスはあった。けれどそれをしなかったのは混乱を避けるため。私もしばらくは混乱して、お父さんとの接し方が分からなくなった。でも絵麻がいたからそれを必死に隠していた。

しばらく雨に打たれていた。その時、雨の音に負けないほどの声が聞こえてきた。



「名前っ!!日向の居場所が分かったぞ!!」

『…ゆーすけ』



聞けば絵麻は朝日奈家の四男、光という人のところにいると連絡が来たらしい。と言えど絵麻から来たわけではない。その四男さんから電話があったそうだ。



「とりあえずシャワー浴びてきなさい。そのままでは風邪を引いてしまいます」

『…はい』



侑介に上着をかけてもらい、傘で雨を阻んでもらったけれど、それまでに濡れてしまった分は乾かない。ポタポタと髪の毛から水が滴っている。



『絵麻…』



ごめんね。絵麻、ごめん。傷付けたくはなかったんだ。守ってあげるつもりだったのに。ごめんなさい。お風呂から上がると話題はもちろん絵麻のことで。



「ねぇ、名前。名前は絵麻が帰ってこない原因が分かっているんだよね?話してもらえないかな」

『………ごめんなさい。今は、まだ、話せません』

「名前!!」



梓兄さんからの話を断るとすぐに椿兄さんに名を呼ばれる。けれど、これは絵麻のいないところで話しちゃいけないことだ。絵麻と私が話し合うことが一番にするべきことであり、兄弟たちに話すのかどうかというのは二人で決めることだ。私が勝手に話していい内容じゃない。



『勘違いしないでください。今は、というだけで話さないという訳ではありません』



椿兄さんはいまいち納得のいかないような表情をしていたけれど梓兄さんに止められて反論を止めた。



『………すみません、疲れたので寝ます』



そうして私はその場から逃げ出した。

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