第二衝突 【38ページ】
また定時に帰られなかったかと思いながら家への道程を運転する。真っ暗な外をライトで照らしていたら怪しい動きの人影が目に入った。
「何だ?あいつ」
よく見てみると影は二つ。前を歩く女子高校生とその後ろをまるで尾行でもしているかのような怪しい動きの男。何となく気になって様子を伺う。どうやらやはり彼女は後をつけられているらしい。男はかなり怪しく電柱の影に見え隠れしている。
「ストーカー決定だな。携帯携帯…げ」
こんなときに限って電源切れの携帯にため息しかでない。警察に通報したくても電話する方法がなければ何もできない。そんなことを俺がしているうちにどうやら女子高校生はコンビニに逃げ込んだらしい。出入り口が見える電柱の影に男は移動していた。
「…仕方ないな」
こういうときはどうすれば一番有効なのか。とりあえず知り合いで女みたいな名前を呼んで話しかけてやるか。
「梓?お前何してんだ、こんな所で」
女子高校生は驚いた顔で振り向いて、俺の意図を読み取ったのか上手く話をあわせてきた。
『椿兄さん、遅いよ』
何も買わないのは変だろうとアイスを適当に二つ買い、コンビニを出る。そして彼女を抱き寄せて顔を近づける。電柱の影にいる男からはまるで口付けているように見えるだろう。
『ちょっと……』
「しっ、黙ってろ」
抵抗する女の口に人差し指を立てて黙らせる。ここまでしているというのに嘘がバレてしまえば馬鹿みたいだろ。じっと男を睨みつけてやれば悔しそうな表情をして逃げ去っていく男。深くフードを被って、マスクをして、メガネまでかけている為、顔は見えない。用意周到なことだ。
「…悪かったな。急にこんなことして」
『いえ、助かりました』
男が完全に見えなくなったことを確認して距離を取る俺。このままじゃあの男と何も変わりはしないからな。
「送ってやるよ。まだあいつがいるかも知れねぇしな」
『…ありがとうございます』
少し悩んだようだったが彼女は頷いた。コンビニの近くに止めていた車に乗り込み名前を聞く。気になったことがあったからだ。ただのファンの可能性もあるが。
「お前、名前は?住所はどこだ?」
『日向、いえ、朝日奈名前です。サンライズ・レジデンスというマンションに住んでいます』
やっぱりな。梓と咄嗟に出てきた名前を言ったときに返ってきた返事、椿と聞いて思った。もしかしたらこいつは妹になる奴ではないのだろうか、と。
「俺は朝日奈棗。今は住んでないがサンライズ・レジデンスにいる朝日奈兄弟の7男だ。ちなみに5男の椿と6男の梓とは卵違いの三つ子だな。キョーダイになるとかいうのはお前か」
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