第二衝突 【26ページ】
『遅くなってごめんね、お母さん、お父さん』
氷見家の墓の前に立つ私。氷見って言うのは私と絵麻の本当の苗字。ここへ来るのは二ヶ月ぶり。毎月来ていたのだけれど、前月は引越しやら何やらで忙しく来ることができなかったのだ。汚くなってしまった石墓を掃除して、来る途中で買った花も供えれば綺麗になる。
『私と絵麻に家族が増えたんだ。それも男の子ばっかり。驚いたでしょ?』
正直言って私には親と過ごした記憶なんてない。絵麻も何も言ってこないあたり覚えていないだろう。小さい頃だったらしいから。
麟太郎さんが本当の親じゃないと気づいたのはいつだったか。絵麻は相変わらず”パパ”と呼んでいるけど、私は本当の親ではないと知ってしまってから”パパ”と呼べなくなってしまった。
お父さんにこのことは秘密にしてくれと頼まれている。私も偶然知ってしまっただけだし、少なからず動揺するであろうからだろう。絵麻には大きくなったら話すからと言っていた。けれどそれはいつなのだろう?もう十分大きくなったと私は思っている。だからといって今言うのは躊躇うけど。家族が増えてまだ距離を感じている間は心の整理も必要だろうから、余計なことは言わないほうがいい。
『お父さん、お母さん。また来るね』
電車で約1時間ちょっと。平日に来るのは大変だけれど、真実を知ってしまった以上私だけでも来てあげないとお母さんたちも寂しいだろう。
少し遅くなっちゃったな、なんて思いながら私は電車に揺られていた。
真っ暗になった空を眺めながら帰宅すれば椿兄さんが抱きついてきた。
「名前っー★帰ってくるの遅くない?あぶなーい」
『椿兄さん、離して下さい』
引き剥がそうとするけれど離れてもらえずどうしようかと思っていたら梓兄さんが椿兄さんに鉄拳を打つ。
『ありがとうございます。梓兄さん』
「ううん。でも、こんな遅くにまで何かあったの?」
『いえ…部活が長引いただけです』
誰にも教えない私の秘密。ううん。まだ教えちゃ駄目な秘密なんだ。
『絵麻は?』
「彼女なら夕食を食べた後、自室に行ったよ。もうすぐテストだから勉強しますって」
「名前は大丈夫なのー?」
『まぁ、なんとかなりますって』
後2週間で期末テストがある。テスト1週間前から部活が禁止になっちゃうからテストなんてなくていいんだけど。そしてその期末テストが終わればすぐに大会が始まる。
いつもテスト勉強は特にしない私。しても教科書を2、3回読む程度だ。それでもそれなりの点数は取れるし、問題ないと思っている。絵麻には学力で敵うはずないし。
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