第六衝突 【199ページ】



「名前いたか!?」

「いや、こっちにはいなかった。向こうを見てくるから侑介はあっちを」

「分かったぜあず兄!!」

「名前さんいましたか?」

「ううん。あだ名ちゃん、いなかったよ」



あれから数時間。誰の元にも名前からの連絡が来ない。朝日奈家の兄弟達は必死に探すが、彼女の姿一つ見当たらない。そんな中だった。家で弥とともに待機していた雅臣の元に一通の電話が鳴った。



「もしもし朝日奈です。うん、僕だけど…え?」



日付はもうとっくに変わってしまっていて。弥は少し前に眠ってしまった。絵麻は侑介に連れられて強制帰宅させられていた。電話を受けた雅臣は現実を受け入れることができずにただ呆然と受話器から流れる声を聞いていた。途中でポロリと手から零れ落ちたことにさえ気付かずに。



「雅兄?電話切れてるけど、何か連絡あったの?」



声をかけてきたのは6男である梓だ。明日にも仕事がある。そのため仕方なく帰ってきたのだろう。



「…あ、梓。お帰り。ちょっと僕出かけてくるよ」

「ちょっと雅兄!?」



止める暇も無かった。梓が止める間もなく雅臣は自動車の鍵を持って玄関へと走っていってしまった。



「何だったんだろう…。もう日付が変わってる。一旦皆家に帰ってくるべきだね。明日僕みたいに仕事のある人もいるだろうし」



雅臣の行動は気になったが、それよりも今、優先すべきことは名前だ。梓は携帯を取り出し、皆と連絡を取った。



その翌日。都合の付いたものは皆、群馬へと足を運んでいた。なぜなら早朝に雅臣から連絡があったのだ。今すぐ群馬の県立病院に来るように、と。そして―――名前ちゃんが見つかったと。

病院の奥の方。集中治療室に、名前はいた。顔には大きな絆創膏を貼られており、細い首筋に手首、頭と見える範囲だけでも痛々しく包帯が巻かれている。



「…な、何で」

「名前ちゃん…」

「おねぇ、ちゃ……」



現実を受け入れられない。皆、ガラスの向こうに眠る名前を見て愕然としていた。コツコツと音がして、白衣姿の雅臣が姿を現す。



「一体どういうことだよ雅兄!!!!」



一番に食いかかったのは椿。乱暴に雅臣の胸倉を掴み上げる。



「おい椿!やめろ!!」



椿の腕を掴み、止めるのは棗。いつもなら梓の役目だが残念ながら彼はどうしても抜けられない仕事に行ってしまっている。



「棗!!お前だって気になってるんだろ!?答えろよ雅兄!!」

「…名前ちゃんは、彼女は大学からの帰り道で居眠り運転のトラックに轢かれたみたい。運転手は慌てて名前ちゃんを助手席に座らせて、どこかに埋めようとしたみたいだけど、彼女が少し呻き声を上げたらしくてね。葛藤があったみたいだけれど、このまま殺人犯になることが怖くなって病院に運びこんで来たらしい」

「名前は無事なんだよな!?」

「…多分。意識さえ戻れば大丈夫だと思うよ」

「そんな…お姉ちゃん!!」



すぐに名前は東京の病院へ移動することになった。朝日奈家全員の希望でだ。だが、彼女はそれから3日経っても目を覚ますことはなかった。
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