第六衝突 【196ページ】


久しぶりに大学も休みで、その日は一日中ゆっくりしていた。時々右京兄さんを手伝いながら、普段時間の合わない絵麻と話したり。弥君の勉強を見てあげたり、それなりに充実した一日だった。



『…椿、そろそろ帰ったかな』



せっかくの休みだったのに。椿は仕事のため、朝から出かけてしまっていたのだ。声優という仕事柄、不規則なのは仕方がないのは分かっているが。ガチャという音がして部屋を飛び出した。



『椿!おかえ…』

「ただいま名前。椿じゃなくてごめんね」

『あっ、ううん、ごめんね梓兄さん。おかえりなさい』

「椿ならまだ帰ってこないと思うよ。飲み会に行くみたいだから」

『そっか。ありがとう梓兄さん』

「遅いからちゃんと寝なよ?名前」

『はーい』



椿だと思って出た先に現れたのは梓兄さんだった。椿兄さんの隣は梓兄さん、その隣が私の部屋という構造上、私が聞き間違えたのだろう。



『にしても、今日は会えないのかな。残念』



なんだか無償に会いたかったのだけれど。仕事の邪魔をするわけにはいかない。おやすみなさいというメールだけ打って、私は眠りについた。

優しい夢を見た。どんな夢だったかは忘れてしまったけれど。魘されることが多くなっていた私にとっては久しぶりのことだった。



『何だったんだろ…』



何て考えるようになってしまった私はいつからこんな卑屈な人間になってしまったのだろう。
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