第六衝突 【192ページ】

大学生活にも慣れてきた6月の初旬。名前の身の回りに異変が起きていた。初めは持ってきていたはずのタオルが無くなる、サークルの先輩たちに話しかけても無視をされる、専用のロッカー等に落書きされる、程度だった。が、今では暴力は当たり前になり、無理矢理頭を押さえつけられて溺れさせられそうになったりもした。今まで軽い嫉妬は努力している姿を見せて。大きな嫉妬は実力で逸らしてきた名前。だがそう簡単に今回の事は進まないようである。



『…っぁ、いっ!』



いつも狙われるのは腹や背中。水着で隠れる部分だから誰も気付かない。彼女自身、助けてと言える性格ではない。それでも涙を堪えて睨み続けていた。暴力を加えてくる奴らにとってそれは気に入らないとわかっていても。一対大勢。数で敵うはずもない。女子だけならともかく男も混ざっているのだから。ただただ名前は何も言わずに耐え続ける。



『…あぁ、今日もまた遅くなっちゃった』



まるで何事も無かったかのように立ち上がる彼女の瞳は何も映してはいなかった。

大学では弱っている彼女だが、家では決してそんな姿を見せようとしなかった。同じ大学にいる祈織に決して聞かれないように細心の注意を払って。彼氏である椿に泣きつくこともなかった。いつしか時は梅雨を終え、初夏となっていた。



『えぇ!?祈織兄さん留学するの?』

「うん。少し前に決ってね。話そうと思ってたんだけど時間がなかなか合わなくて」



5月頃には決っていたらしい祈織兄さんの留学。他の兄弟達には言い終え、後は私だけだったらしい。



『夏休み中に行っちゃうんだ。寂しくなるなぁ』



もう季節で言えば夏。祈織兄さんと過ごせる時間も残りわずか。昴兄さんが九州の方に行っただけでも寂しいのに、さらに人が減ってしまうとは。特に自分と同じ大学であり、先輩だ。彼から教えてもらえることはありがたかったし、役にも立っていた。



「そう思ってくれて嬉しいよ。ねぇ、この花受け取ってくれる?」

『祈織兄さんがくれる花はいい薫りがするし、部屋が鮮やかになるから好き。ありがとう。これはなんていう花なの?』

「ナナカマドだよ。見守っていう意味があるんだ」

『へぇ。ありがとう祈織兄さん』



綺麗な白い花。一つ一つは小さいけれど、集まって大きなものに見える。蕾も真っ白でまるで雪が積もっているかのよう。祈織が去った後、名前はポツリと呟いた。



『私には綺麗過ぎるよ。もったいない花をありがとう祈織兄さん』

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