第六衝突 【188ページ】
桜の花より一足先に桃の花が咲き始めた頃。昴兄さんはマンションを出て行った。九州の方で暮らす準備をするため。向こうでの生活がスタートするのは四月かららしいけれど、いろいろやらなくてはいけないことがあるから早目に行くらしい。
私も私として大学生としての生活に色々準備しないといけないのだけれど。まぁ気楽にすればいいよね、なんて楽観的に考えている。絵麻は最近侑介といい感じみたい。(というか私がくっつけて遊んでるんだけど)同じ大学入るくらい頑張った侑介にご褒美だ。
「お。名前、丁度良かった。これからゲーセン行こうぜ」
『いいよー。駅前のとこでいいよね。ちょっと着替えてくる』
少しくらいは可愛い服を持つようになった私。侑介と一緒にいるときはオシャレなんてしないけれど、椿兄さんはオシャレだから変な格好して隣を歩けない。デートとか二人でいるときには服装に気を遣うようになった。
『これでよし。侑介、行こっか』
「あぁ。今日こそボコボコにしてやるよ!!」
『その言葉そっくりそのまま返すけど?』
神懸かった妹の腕ほどではないにしろ、私も結構ゲームは上手いんだから。今まで侑介をけちょんけちょんにしてきたのは誰だと思ってるの。テスト前にやられたの忘れちゃったの?まぁ、とりあえず圧勝でもして何か奢ってもらおうかな。
そんなことを考えているとあっという間に駅前のゲームセンターに到着。さっさと対戦するゲームを決めてコインを入れる。ゲームに夢中になっていると突然後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこには棗兄さん。どうやらゲームの新作を作るのに視察に来たらしい。
『棗兄さん丁度いい所に。やってかない?侑介ったら弱くってさ』
「なつにー…」
最早、侑介は涙目になっている。何十回も負けていれば心が折れてしまうのも仕方ないだろう。
「名前、お前、本当に兄弟をボコボコにする気かよ」
『えー?そんなことないよー』
「どの口が言うんだよ…」
二人に呆れた顔をされたけど見なかったことにしよう。棗兄さんは侑介があまりにも哀れになったのか協力プレイで倒しにかかってきた。
『ちょっ、それズルイ!!…あ、あぁーー!!』
さすがに個人個人の腕で一番良くても、二人がかりだとどうも的が絞りきることができずに、私の画面にはLOSEの文字。これってさすがに酷くない?仮にも可愛い妹に対してさ。
「よっしゃあ!サンキューなつにい!!」
「あぁ!名前は強いからな。一人じゃどうも手が出ない」
『むー、悔しい。もっかい!次、絶対に勝つから!!』
「望むところだ」
「返り討ちにしてやる!」
ゲーム熱に火がついて。何度も何度もプレイした。おかげで家に着いたのは夜遅く。棗兄さんが送ってくれたおかげで私と侑介は右京兄さんの怒りを買わずに済んだ。代わりに棗兄さんがとばっちりを受けていたけど。ごめんね、と口パクで伝えて部屋へと戻ろうとしたところ、部屋の前でドアを背もたれに立っている人物を見かける。
『どうしたの?椿兄さ、んっ!?』
声は彼の口に吸い込まれた。すぐに唇は離れて、額に、頬に、鼻先に口付けを落としていく椿兄さん。
『つ、椿兄さん?』
「椿」
『え?』
「俺の名前は椿なんだけど」
『…つば、き』
それでも戸惑う。私より彼は年上で。本来ならば敬う兄であるはずなのだ。それに呼び捨てで呼ぶのは恥ずかしい。同じ学年の男子なら大抵名前を呼び捨てにするのに。こんなにも心をときめかされるのは椿兄さんだからなのだろう。
「ん。もっかい」
『っ、つばき…つばき、つばき』
けれども椿があまりにも嬉しそうに笑うから。私もつい甘やかして呼んでしまうんだ。
「名前ちょーかーいー★ね、俺の部屋行こっ?いいよね!」
『ちょっと椿兄さ…!!』
「これから椿兄さんって呼んだらお仕置きしちゃうからー★」
いい顔で、いい声で、そんな怖いこと言わないで下さい。この間が初めてだっていうのに。あれ以上激しくされてしまったら本当に立てなくなっちゃう。
『えーっと、お手柔らかにお願いしますね?』
「りょーかーい★」
あぁ、この笑みは絶対に裏があるよ。明日、無事に動けるかすごく心配です。。。
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