第六衝突 【186ページ】

卒業してから、高校のプールに行くわけにもいかず、地元にある施設のプールを使っていた。地味にお金がかかるのが痛いところだけれど仕方が無い。大学が始まればまた自由に泳げるのだからそれまでの我慢である。



「おや、今日も来たのかい?」

『はい。5時間コースでお願いします』

「今日は小学生たちが来るけど」

『大丈夫ですよ。コースの隅っこで泳ぎますから』

「悪いね」

『いえいえ』



夕方からは小学生から中学生くらいまでのスイミングスクールが開催されるそこは、勝手に泳いでいる私はどうしても隅においやられてしまう。まぁ泳げたらどこでもいい私としては問題ない。

バシャバシャと音を立てて泳ぐ。部活動をしていた時ほど毎日泳がないからだろうか。息が苦しくなってくるのが早くなっている気がする。大学に行っても泳ぐというのにこれではいけない。もう少し回数を増やそうかななんて考えながらも泳ぐ。体を命一杯使って泳ぐ。
はぁはぁ、と息を整えて時計を見と今は4時過ぎ。ここへき来たのが12時だったから、もう1時間残っている。もう少し頑張りますか、と周りを見渡せばもう大分小さい子達が来ていた。準備運動をしていて、今から正に入ろうとしているときだった。けれども、何かが足りていない。いつもいるはずの数人の先生がいないのだ。どうしたんだろうと少し話をしたことのある人に話しかけた。



「急遽来れないって数人に言われちゃってね。私たちで回さないといけないのよ。もしよければ、あなた、手伝ってくれない?出来ればでいいのだけれど」

『いいですけど。初めてなので要領分かりませんよ?』

「大丈夫よ。クロールが専門なんだっけ?クロールのフォームを教えてあげてくれる?目標は25m泳ぎきれるようにすることよ」

『分かりました。あ、でも、今日は5時で上がる予定だったのでそこまでの料金しか払ってません』

「私が上手く言っておくから大丈夫。じゃあこの子達お願いね」

『分かりました』



小さい子に教えるだなんて初挑戦。どうやって教えればいいかなんて分かるはずもない。とりあえず教え子たちにシャワーを浴びせさせて、コースに入り、ビート版を持ってバタ足からゆっくり教えていった。



『そうそう。上手いじゃん!』

『もう少し強く蹴れるかな?』

『水しぶきを立てるだけじゃなくて、うん、そんな感じ』



スイミングスクールは2時間30分。どうにか乗り切った私は子供たちと仲良くなっていた。



「ばいばーい名前先生!またねー」

「名前先生、さようならー」



可愛く手を振る彼らに私も手を振り返す。だけど”またね”だけは言葉にすることはできなかった。無邪気な彼らに嘘をつくことをしたくなかった。私はあくまで仮の今日限りの先生なんだから。



「今日はありがとね」

『いえいえ。私も楽しかったですから』

「またお願いできるかしら?」

『大学が始まるまでの間でしたらしばらく通うつもりなのでいいですよ』

「助かるわぁ〜。バイト代出さないとね。はい」

『えっ!?いや、いいですよ。申し訳ありませんし』

「いいからいいから。ちゃんと貰いなさい」

『…ありがとうございます』

「また頼むよ」

『分かりました』



押し負けて私は結局また人数が足りない時は手伝うという約束を取り付けられた。

あ。早く帰らないと。夕食時までには帰るって言ってるのに大分遅くなっちゃった。携帯着信沢山着てるし。疲れてるけど、これじゃマンションまでダッシュかな。
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