第六衝突 【183ページ】

家に帰ったら、一番に今の姿に驚かれた。まぁ制服じゃなくてジャージで帰ってきたら驚くか。仕方ないじゃん。私は人気なんだもの。制服は全部いらないからとあげてきた。



絵麻と侑介が帰ってきたら、卒業パーティーということで大変盛り上がった。そしてもう一つの報告。なんと侑介が明慈大学に補欠合格したという通知が来た。それまでは雑な扱いを受けていた侑介だったけれど、やっと主役の仲間入りって感じかな。人数が多いからなのか、盛り上げる人たちが多いのか、そのパーティーは盛大だった。

右京兄さんはどうやら仕事が立て込んでいるらしく、さっさと部屋へと戻ってしまった。忙しい中、豪華な料理を用意してくれるあたり右京兄さんも何だかんだ言いながら私達に甘いと思う。主に絵麻に、だとは思うけれど。

絵麻も何やらまほちゃんと電話をし始めてしまったみたいで、食べ終わったお皿だけでも片付けてしまおうと台所に立った。…のは、いいのだけれど。椿兄さんがいつの間にか後ろにいて、私を抱きしめてきた。



『わわっ!?ちょっと、椿兄さん危ないじゃん』



もう少しでお皿を滑り落とすところだった。危ない、危ない。だからいきなりは止めてって言ってるのに。驚いちゃうから。



「えー、いいじゃん★だって俺らこーゆー関係だし?」

『つ、椿兄さん!!』



数人は部屋に戻ったといえども、まだ大人組はワインを飲んで楽しんでいる。私にだって恥はある。そんな私を無視して椿兄さんは私にだけに聞こえる声で言った。



「だーかーら、名前が終わるのを部屋で待ってるよ。だから、今夜は俺の部屋に来てね?」



吐息が耳朶を掠めるような距離で椿兄さんは呟くような囁きを零した。

テレビからはひな壇タレントの笑い声が空虚に響く。雅今まで通りの日常の光景を目の前にして二人だけの特別な会話を交わしている。私が動揺しているのを良いことに、椿兄さんはそ知らぬ顔をしたまま腰周りを指先で撫でた。



『椿兄さんっ…』



彼は整った顔の笑みを私に向けて、腰をぽんと軽く叩いてからリビングから姿を消した。

椿兄さんの部屋に行くのは初めてで。それに、だって、そういうことでしょう?緊張で震える手でインターフォンを押す。すぐにドアは開いて椿兄さんが顔を出した。そのまま部屋へと足を踏み入れて驚いた。

乱雑に積み重なった漫画と服。もはや山というレベルにまで達している。壁には椿兄さんと梓兄さんのポスターと何やらアニメのキャラのポスターがでかでかと貼られている。ベッドは沢山のクッションが置かれていた。



『…よく人呼べたね椿兄さん』



座る場所さえままならない。正にそう言うのが正解なのであろう部屋だった。



「えーこのカオスがいいだろ!?」

『わかんない。もう少しくらい片付けて』

「無理ー。だって俺、この部屋の掃除しねぇもん」

『じゃあいつも誰がやってるの?』

「梓ー」



あぁ、と納得する。確かに彼しかいないだろう。山積みになっているCDやDVD、ゲームのパッケージをのけてそこへ座る。椿兄さんの隣、ベッドに丁度背を預けることのできる位置。



「名前充電ー★」



訳の分からないことをいいながら抱きついてくる。まぁいいかなんて思いながら私はゴソゴソと適当に落ちてある本を読み始めた。読み始めた本は以外に面白くて。気がつかない内に夢中になってしまっていた。



「名前〜名前〜。なぁ名前ってば」

『…わっ!!ちょっと椿兄さん返してよ。いい所なんだから』



急に本を取られて私は不機嫌だ。これから主人公がどうなるのか気になるのに。手を伸ばしてみても身長差のある椿兄さんに対してするだけ無意味だ。



「名前が俺の事、放っておくからだろ〜?」

『だって…』



抱きしめられていたら心臓が煩いんだもん。近くにいるとドキドキする。

男友達が私を見る瞳が女に変わったとき、ちょっとした接触でも下心が見え隠れしていて、身体が強張った。どうすればいいのか分からなくて段々とその人と距離ができて。今まで築き上げてきたはずの友情が壊れる音が聞こえたような気がした。恋愛の前では全て空虚になってしまうのだと。なら異性として見られないように振舞えばいいじゃないか。女の子たちからの呼び出しも相まって、元々男勝りな性格だった私はスカートを履いていなければ男のようになった。これなら大丈夫。友情も絆も信頼も、何も壊れない。そう思ってた。少なくとも兄弟達に会うまでは。



『ごめんごめん。降参。…っと、そろそろ遅いし、私、そろそろ部屋にっ!?』



時計を見て、部屋に戻ろうとした私の腕を掴まれて。勢い余って彼の胡坐の上へと座り込む。急接近によって真っ赤になっているであろう私の顔に近づけて彼は囁きかけた。



「今日は帰さないから」



さらに顔が真っ赤になったことは言うまでもないと思う。

結局逃げるに逃げられなくて今、私は椿兄さんの部屋のお風呂を借りている。ブクブクブクと泡を立てながら沈んでいく。なんとなく思ってはいた。初めてだから、と踏ん切りをつけなかったのは私。怖いと言って逃げたのも私。椿兄さんが我慢していることを知っておきながら。



『…女は度胸だ』



そろそろ椿兄さんに応えるべきなんだ。少し怖いけど大丈夫。きっと椿兄さんなら大丈夫。

決意を固くしてお風呂から上がると私が着ていた服はなくなっていた。その代わりに彼のシャツらしきものが。所謂彼シャツってことですか。下着も何もないからシャツを身に着ける他無いし。着てみたもののすごく頼りない。裾を伸ばせば胸元が頼りなく、胸元を寄せれば太腿が丸見えだ。



『椿兄さんの馬ー鹿』



諦めて椿兄さんの元に行くと大はしゃぎ。椿兄さんが用意したくせに。そのまま私は彼のベッドへと押し倒された。
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