第五衝突 【179ページ】

心臓が激しく脈打つ。今日はバレンタインデー。三つ子の兄達には今日、集まってほしいところがあると連絡済。さすがにカフェでそんな話をするのも躊躇われたので、人気の無い公園、そこが待ち合わせ場所となっている。

私は早めに家を出て公園のブランコを適当に漕いでいた。椿兄さんも梓兄さんも昼過ぎまで仕事が入っていると言っていた。もう少しで予定通りなら来るのだろう。棗兄さんは急に呼び出しを食らってしまったらしい。サラリーマン、お気の毒に、だ。



「名前っ〜、お待たせ★」

「少し遅くなっちゃったかな?ごめんね名前」



そんなことを考えていると声が聞こえてきた。仕事を終えて直で来てくれたのか、車が公園の入り口付近で停まっている。

けれども私が待っているのはこの二人だけではない。軽く話していると、目的の人物もやってきたようだ。椿兄さんたちの車の前にもう一台の車が停車した。



「遅いよ棗」

「悪い。ちょっと仕事が立て込んじまってな」

「せっかくかーいー妹からお誘いを受けたって言うのに、ほんっと淡白だよなー棗って」



私はブランコから降りて、ベンチに座る兄たちの目の前に立つ。



『今日集まってもらって何となく察しはついてると思います』



私が持ってきた三つのチョコ。明らかに一つだけラッピングが違う。それを、誰に渡すかとすごい視線を感じるのだけれど。

どうしようかな。いざとなって尻込みしてしまう。こんな緊張したことない。大会のときもこれほどではなかった。



『えと、まずは、棗兄さんから、で』



3人の視線にいたたまれなくなり、語尾が下がりながらも名を呼んでいく。



「あぁ」



ベンチから立ち上がった彼に私はチョコを渡す。普通の、家族用のチョコレートを。



『ごめんなさい。私、棗兄さんの気持ちには応えられません』

「…そうか」



やっぱりな、と彼は小さく呟いた。私の気持ちに気付いていたのだろうか彼は。自分自身でさえ、最近気付いたというのに。



「これで最後にするからこれくらい許してくれ」

『な、棗兄さん…!!』



ぎゅっと抱きしめられて、不意を突かれて唇が合わさりあう。すぐにそれは離れて、双子の兄達に取り押さえられていた。

次もこんなことされたら、たまったものじゃないんですけどなんて思いながら私は梓兄さんの名を呼んだ。
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