第五衝突 【177ページ】

そんなある時。夢を見た。一目で夢だと分かる夢。真っ白だった視界がふわふわふわふわ、と覚めてきて。



「名前」



私を呼ぶ声がする。誰だろうと、近づいてみて分かった。この声は椿兄さんだって。
くん、と引き寄せられた先にはやはり椿兄さんがいて。彼は、はにかんだように笑う。私を抱き寄せる腕は離すまいと力強いのに、壊れそうなモノを使うかのように優しい。どうして私を抱きしめてくれるのだろう。どうしてそんな風に優しく笑うのだろう。ねぇ、どうして?目が合って、まるで時間が止まったみたいになる。椿兄さんが手を伸ばしてきて私の頬を掠める。そのまま髪の方に指を絡ませて、椿兄さんの顔が近づいた。整った顔、伏せられた睫毛。頭を引き寄せられて徐々に近づいていく。どうして、どうして。椿兄さんに近づくことを嬉しいと私は感じているのだろう。その瞬間、私はベッドから落ちた。



『…最悪だ』



先程のことは全て夢だった。だとしても。こうやって嬉しいのもドキドキさせられていたのも、一つの理由ですべて片付いてしまう。気付きたくなかった、というよりは気付かないようにしていたのかもしれない。あぁ、私は椿兄さんのことが好きなんだ。



『私ってどれだけ鈍感なの………』



一度自覚してしまえば単純なもので。どうしても椿兄さんの前では普段通り振舞うことができずにいた。



『…はぁ』



駄目だ。このままじゃ。どうしても恥ずかしくて。何をしていても意識してしまって。情けない限りだ。そんな折、合格発表結果を見に行ってる絵麻から電話がかかる。



『もしもし?絵麻?』

「お姉ちゃん!私、受かったよ!!合格した!!」

『本当?やったね、絵麻!ご褒美用意しなきゃ』



侑介のことは話題に上がらなかった。触れては駄目なのだろうと私は敢えてそのまま電話を切った。確かに2人が帰ってこれはその予想通りで。合格したのは絵麻だけだったらしい。ちょっと侑介、どうするつもりなのさ。志望校一本にしてたくせに。留年でもするつもりなのだろうか。

だなんて考えても意味が無い。今日は絵麻の合格パーティーと決っているのだから。侑介の立場の低さがたまに可哀想になる。

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