第五衝突 【176ページ】

腕相撲で力使って疲れたし、買った服を整理しなくてはならなかったので、部屋に戻ろうとしていたところを要兄さんに離しかけられる。



「あだ名ちゃん」

『ん?どうしたの要兄さん』

「これ、あげるよ。妹ちゃんと2人で行ってきな?」

『いいの?』

「お兄ちゃんだからね。可愛い妹に譲ってあげる」

『ありがとう要兄さん!!』



ぎゅっと抱きつく。頭を胸辺りに埋めていれば下手にキスなんてされないことが分かったから。要兄さんも何だか嬉しそうだし、多分これで正解なのだと思う。けれど、この家には騒がしい人がいるわけで。



「あー!かな兄ずっりぃ!!」

「ほら、こっちおいで」

「かな兄にそんなことしてたら妊娠させられるぞ」

「姉さんそんなエロ坊主に抱きつく暇あるなら僕に抱きついてよ」



上から5男6男7男、そして12男である。それにしても要兄さんに対して酷い言い草だ。最早抱きついただけで妊娠って歩く生○器じゃん。そろそろ離れてもいいかなとしたけれど彼は力を緩めてくれない。



『ちょっと要兄さん!!』



要兄さんの手が腰に回されている。力では敵うはずがない。そんな私と要兄さんを見て機嫌を悪くする彼ら。…面倒だ。

そんな要兄さんのからかいからなんとか脱出して。温泉のチケットを持って私は絵麻の部屋へと向かっていた。



『絵麻ー、要兄さんがチケットくれたー』

「え、本当に?良かったのかな…」

『くれたんだからいいなじゃない?ね、一緒に行こう?』

「うん!行きたい!お姉ちゃんと初めての二人での旅行だね!!」



こうして絵麻との旅行が決った。膳は急げ、ということでさっそく日取りが決められて電車で温泉地へと向かう。



『ねぇ、ジュリ置いてきちゃってよかったの?』

「琉生さんのところに置いてきたから。それにお姉ちゃんと二人だからって言ったら、なら大丈夫だな!って力強く言ってたよ」



絵麻の護衛として常に彼女の周りにいるリス。兄弟達を威嚇してくれているのはいいのだけれど、あからさまにやりすぎている節がある。要兄さんとか少し近づいただけで引っかかれてるし。(彼が悪い部分もあるのだけれど)琉生兄さんはジュリと私達同様話すことができるらしくて、かなり懐いてたっけ。毛繕いが上手いとか言っていたような。そんなことを思い出す。さて、そんな他愛もない話をしていれば目的地はすぐそこだ。チケットを見せれば、極上じゃないかと思われるほどの部屋に通されて。部屋にも露天風呂が完備されてあるといったすごいものだった。



『どうする絵麻?温泉巡りする?部屋の露天風呂に浸かってもいいんだけど』

「とりあえずは温泉巡りかな。帰ってきてから露天風呂に入りたい!」

『よし、じゃ決定。さっそく行くよー!!』

「待ってよお姉ちゃん!!」



こんな風に絵麻と2人きりになるのは久しぶり。家では誰か必ずいたし。一緒にゲームすることはあるけれど、大した時間じゃない。何だか変に懐かしみながら私は絵麻と共に温泉へと身体を預けた。

用意されてあった浴衣を着て、部屋を出ている隙に敷かれていた布団の中へと入った。絵麻とこうして布団を並べるのもいいものだな、なんて思いながら。



「ちょっとした修学旅行みたいだね」

『そうだね〜。ずっとベッドだったし。お互いに忍び込んだりしたよね』



枕をくっつけて話し合う。もう電気は消したというのに。やはりいつもと違う環境だからなのだろうか。興奮してしまっているのかもしれない。いつの間にか本当に修学旅行にでも来たような気分になっていて。所謂ガールズトークというものを繰り広げていた。



『で、絵麻は誰が好きなの?昴兄さん?祈織兄さん?侑介?』

「えぇ!?そ、そんなことは…」

『赤くなってるよー絵麻ちゃん』

「うぅ…」



恐らく絵麻に気持ちが向いているだろう人を並べていく。私としては侑介押し。馬鹿だけど一途だし、純情少年でからかうのが面白いから。あー、でも和馬もだよなぁ、だなんて考える。結局は妹が決めることなのだけれど。



「お、お姉ちゃんこそ誰か好きな人いないの?椿さんとか風斗君とかさ」

『んー…』



立場逆転。見事に私に思いを告げている人の名前を言われて驚いた。



『好きだけど恋愛感情じゃない、って感じかな』

「そうなんだ。お姉ちゃん、最近女の子らしくなったから恋したのかなーって」

『え』

「自覚無かったんだね。お姉ちゃん」



私が女の子らしくなった?この男女と言われ続けた私が?確かに環境の変化はあったと思う。朝日奈家に来て、守る存在ではなくて守られる存在となった。女の子らしくなってもおかしくないと言えばおかしくない。風祭さんに言われた言葉がフラッシュバックする。…未だに自分の気持ちが分からない私って結構鈍感?

温泉地から帰ってきた私達を待っていたのは、卒業考査。これが赤点だと色々まずいことになる。…まぁ、絵麻と私はそれなりに成績優秀者と呼ばれるので大丈夫なのだけど。心配な人が一名いる。



『侑介、ちゃんと勉強してる?』

「う、うっせーな!大丈夫だよ!……多分」



語尾は段々小さくなっていく。受験勉強したからといって、それが考査に繋がるわけではない。さらに受験結果がまだ出ていない彼は不安で勉強など手についていないのだろう。けれどそれでは困る。下手したら卒業できなくなるのだ。侑介の場合は今までの赤点があるから、特に。



『仕方ないなぁ。はい、これ。とりあえずテスト範囲から出そうな問題いくつかノートにピックアップしといた。これやっとけば赤点は逃れると思うよ』

「まじで!?助かる!サンキュー!!」



犬のように目をキラキラさせて、オーバーリアクションをする侑介。あぁ、だからからかいたくなっちゃうんだよね。今はそんなことしている暇なんてないみたいだけど。
渡したノートをきちんと頑張ったからか、彼が赤点を取ることはなかった。もちろん私達は余裕。そうして三年生は後、卒業式を待つのみとなった。
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