第五衝突 【173ページ】

結局風祭さんの言葉がどうしても私は気になって。あれからずっと考えていた。好き?私が?誰のことを?椿兄さん?梓兄さん?棗兄さん?風斗?彼ら以外の兄弟たち?それとも和馬たちみたいな友達?分からない。自分の気持ちのはずなのに私はその答えが分からなくて。



『はぁ〜…』

「ため息ついてると幸せ逃げてくぞ?」

『昴兄さん』



知らぬ間に吐いていた溜め息を聞いていたのは昴兄さん。いけないいけない。早朝ランニング中で、今は休憩しているだけの時だったのに。



「名前、少しいいか?」

『うん?どうぞ』

「俺、プロの選手になろうと思うんだ。九州の方のプロのチームに誘われててさ」

『それ本当!?すごいね昴兄さん!!』

「あぁ。ありがとう。それで、だ。俺は四月には家を出る。だからトレーニング道具を任せても構わないか?部屋も勝手に使ってくれたらいい」

『やった!昴兄さんありがとう!!』

「わ、分かったから、抱きつくな!」



興奮のあまり私は彼に抱きついてしまっていたらしい。腰に手を回す私を真っ赤な昴兄さんが引き剥がそうとしている。あまり力が入らないのか抵抗力は弱かったけど。たまには抱きつかせてくれたっていいと思う。兄弟達には否応なしにくっついてくる人たちもいるというのに。こんなにもどうして違うのか。本当にすごいよね、うん。



『ねぇ一つ頼みごとしてもいい?』

「なんだ?」

『私にバスケを教えてよ。昴兄さんが得意なやつ』

「分かった」

『ありがと』



ちょっとした餞別。昴兄さんは律儀にドリブルとシュートを教えてくれて、どうにか1on1ができるくらいにはなった。とはいえ、昴兄さんに敵うはずもないのだけれど。



『ありがと。昴兄さん』

「いや、いい運動になった。こっちこそありがとな」
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