第五衝突 【169ページ】
年が明けて、元旦には行けなかったけれど、その2日後に初詣に家族で行った。絵麻と侑介の受験が上手くいくように祈っておいた。あれだけ一生懸命してるんだもん。合格するよね。
「そうだ。名前、サンプルやるよ。また感想教えてくれ」
『ありがとう棗兄さん』
「ずるいぞ棗!」
「ゲームで釣るだなんて卑怯だとは思わないの」
「あのなぁ…」
『え、ちょっと、わっ………!!』
階段で話しているのが悪かった。三つ子にもみくちゃにされた私は後ろに体重をかけてしまい、嫌な浮遊感に包まれた。落ちる…!
しばらくしても覚悟していた痛みは襲ってこない。その代わりに誰かに抱きしめられているような感触が。恐る恐る顔を上げてみると棗兄さんにしっかりと抱きかかえられていた。私を守るようにして。
『っ、棗兄さん!?大丈夫??』
「…あぁ、名前は大丈夫か?」
『うん、棗兄さんのおかげで。ありがとう』
すぐに椿兄さんと梓兄さんがやってくる。私は大丈夫だから、棗兄さんを心配してあげて欲しいのだけど。変な音もした気がしたし。
『棗兄さん』
「…っ!!」
何となく、軽くかばっているような気がして腕を掴んでみた。彼は目を見開いて顔を顰める。やっぱり隠してたのか。
『…棗兄さん、病院行こう』
「一人で行けるぞ。それくらい」
『だーめ。私が付き添いたいの』
「分かった」
諦めたのか一緒に病院行くこととなった。私のせいだもん。気になっちゃうよ。
棗兄さんの腕の骨は折れるとまではいかなかったものの、ヒビが入ってしまっていて。ギブスをされて右腕は固定されてしまった。
『棗兄さんごめんなさい…』
「お前のせいじゃない。俺が勝手にしたんだから気にするな」
棗兄さんは皆と違って一人暮らしだ。家事を全てしなければならないというのに、片手では不便だろう。
『うーん。ねぇ、棗兄さん』
そして私は提案した。週に何度か棗兄さんの家を訪ねて、掃除や洗濯、料理をすること。彼は最初断っていたけれど、私の押しに負けてしぶしぶながらではあったが了承してくれた。
『とりあえず冬休みの間は来れるし。学校始まっても週末と平日に数回来ればいいですか?』
「あぁ。十分だ。料理も作っておいてくれれば温めることくらい自分でするさ。そうだ、これを渡しておく」
『合鍵?いいの?』
「お前が仕事中に来たら可哀想だからな。勝手に中に入って掃除でもしてくれてたらいい」
『分かった。一応行く前にはメールするようにはするね。いなかったらこれ使わせてもらう』
「そうしてくれ。お前をこき使っておいて家の前で待たせるなんて何事だだなんて椿たちに言われるのは目に見えているからな」
『あはは…ご苦労様です』
近くのスーパーに寄って貰って食材を買った。そうして棗兄さんの家に足を踏み入れた。
『おじゃましまーす』
棗兄さんの部屋は綺麗だ。掃除がきちんとされている証拠であり、一人暮らしの男の人の部屋って結構汚いイメージだったのだけれど棗兄さんのおかげでそのイメージは崩れ去った。…光兄さんはまた別だ。
『台所のものは自由に使っていい?』
「あぁ、構わない。何か分からなかったら呼んでくれ」
『はーい』
エプロンをつけてご飯を作り始める。病院へ行ったときに雅臣兄さんには連絡済みだし、右京兄さんにも棗兄さんのところでご飯食べるとは連絡してある。絵麻や右京兄さんよりは料理下手だといえども、食べれないほどの腕前ではない。生憎棗兄さんの手料理を食べたことがないのでいつも食べているものと比べられるとどうなのか分からないが。
『はい、できたよ』
トマトの良い香りがするパスタをテーブルに置く。一人用だからこんなものなのだろうけれど、大勢で食べる食事になれていたからかかなり小さく見えてしまう。絵麻と2人のころはこのくらいの大きさのテーブルだったに。
「うまいな」
『そう?ありがとう。本当は絵麻の方が上手なんだけどね。あ、デザートあるよ。食べる?』
「あの短時間で作ったのか?」
『私、デザート作りなら自信あるよ。ちょっと待ってて』
パスタを作りながらも、私はゼリーを作っていた。片手間に作ったから簡単なものではあるけれど。どれも棗兄さんはおいしいと言ってくれて。人に作った料理を美味しいと言ってもらうのはやっぱり嬉しいと感じた。使ったお皿を片付けて、数日分のご飯を作る。大抵のものは冷蔵庫にいれておけば問題ないだろう。
『じゃあ棗兄さん。私、そろそろ帰るね』
「送るよ」
『大丈夫だよ?それに運転できないでしょ?』
「…駅まで送る」
『そう?なら送ってもらおうかな』
棗兄さんに甘えて駅まで送ってもらって。電車に乗って、最寄り駅で降りると次は椿兄さんと梓兄さんが待っていた。どうやら棗兄さんが連絡したらしい。それくらい帰れるのに。
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