第五衝突 【168ページ】
『あれ、侑介どうしたの?』
「ちょっと教えて欲しいとこがあんだけど、今、いいか?」
『うん。大丈夫だよ。入って』
もう夜も遅い。そろそろ寝ようかと思っていたところにチャイムが鳴る。誰だろうと出てみれば、侑介で。何の用かと聞いてみたのが前述だ。
『で、どこが分からないの?』
「あぁ。ここなんだけどよ…」
赤本を覗き込む。どうやら応用問題が分からないらしく、なるべく分かりやすいように教えてやる。
「サンキュー!助かった!」
『ううん。頑張ってね侑介』
「おう!!」
どうやら絵麻の部屋は訪ねられなかったらしい。二人きりになるのが無理だったんだって。あと女の子の部屋に入れない…って私はカウントしないのか。
『…そろそろ寝よ』
頭使って疲れたし。赤点ばかり取っていた侑介の姿はもうなくなった。本気で絵麻と同じ大学に行くつもりみたい。
…羨ましい。城智に行くと決めたのは私なのに、未だに引き摺っている。馬鹿みたいに。
ドアを閉めようとしたところで、見覚えのある人影がやってくるのが目に入った。梓兄さんだ。どうやら今まで仕事だったらしい。こんな遅い時間までお勤めご苦労様です。
『梓兄さんお帰り』
「名前…うん、ただいま」
そう言って微笑むのはいつものことだった。けれども、あっという間に手を引かれ私の部屋のドアの内側に押し付けられた。
『あずっ……んんっ!?』
押し付けられるだけのキスだったのに。いつの間にか後頭部に彼の手が回されていて。何度も啄ばむようなキスに私はされるがままだった。私の唇に梓兄さんのそれを撫でつけるように触れてくると今度は舌で舐めてきた。空気が欲しくなって口を開けた瞬間、口内に、無遠慮に舌が入ってくる。
『…ぁっ、ん……ふぅっ………』
梓兄さんの舌が私の口内を弄り、さらに舌を絡ませる。チュクチュクと音を立ててお互いの唾液が交わらせる音が響く。飲み干せない唾液が顎を伝って一筋零れ落ちた。そして、それと共に私の涙も。生理的なものなのか悲しいからなのか分からない。けれども私の瞳から涙が零れ落ちた。それを見た瞬間、梓兄さんは私から離れて距離を取った。
「ごめん」
『…なんでっ、こんな、こと』
「うん。ごめん。つい、カッとなって。侑介に嫉妬なんかするなんてね」
『侑介には勉強教えてただけだよ?それに侑介が好きなのは絵麻でしょ?』
「だろうね。でも、少なくとも僕は君の部屋に入ったこと無かったから」
そういえばそうかも。部屋に入れたことのあるのは絵麻だけだったかもしれない。今日で、侑介と梓兄さんも更新されたけれど。
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