第五衝突 【167ページ】

あっという間に冬休みに入って。受験生はラストスパートといった感じで絵麻も侑介も切羽詰っている。一方の私は気楽なものだけど。それにしても今日は一段と寒い。暖房をつけて暖かい格好をしていないと家の中でも身体が冷えてしまいそう。ふと外を見ると一面の銀世界が広がっていた。あぁ、雪が降って積もってるんだ。どうりで寒いはずだと納得していると椿兄さんと梓兄さんがリビングへやって来て。強制的に私は雪合戦に参加することになった。



『3人でやるんですか?』

「ううんー、ちょっと待ってて。もうすぐだから★」

「まさか…」



梓兄さんは何かを察したようだった。その数分後、私も分かることになる。



「椿、何だ急用って」



棗兄さんだ。あれ、今日って平日だし仕事じゃないのかな。



「なっつめー!雪合戦するぞー★」

「は?」

「だーかーらー、雪合戦★」

「なっ、おい!ちょっと待て!まさかそんなくだらない理由で呼び出したんじゃないだろうな!?」



あー、やっぱり。棗兄さんも可哀想に。律儀だからなー、棗兄さんは。



「くだらないだってー?分かってないなぁ」

「はぁ?」

「こんな絵に描いたような銀世界を、目の前にして雪合戦しないでどうする!!」

「…俺、帰るわ」



だよね。できれば私も連れて帰ってくれると嬉しいかもしれない。何もないとはいえ、こんな日に外にいるのは寒すぎる。



「なつめぇ!頼むって!俺が負けたら前から欲しがってた例のヘッドホンやるから★」

「………椿、その話は本当だろうな」

「もっちろーん★男に二言はないぜー!」

「やる。仕方ねぇがやってやる」

「やったー!」



心の中で応援していた棗兄さんは落城してしまい、逃げ場を失った私は諦めて雪合戦を楽しむことにした。


チーム決めは公平にジャンケンで。パーを出した者同士、梓兄さんと同じチームとなった。



『よろしく、梓兄さん』

「うん。よろしくね名前」

『で、私はどうすればいい?』



梓兄さんが立てた作戦により椿兄さんも棗兄さんも撃沈。こういうのは頭脳戦が得意な人とやるのが一番だ。私はどちらかというと攻撃中心だから。



『やったー♪イエーイ☆』

「うん。名前、雪玉投げるのも上手なんだね」



梓兄さんとハイタッチ。私の持っている手袋は綿製で、雪を触れば冷たくなってしまうので、素手で触っていた。



「あぁ、手が真っ赤になっちゃってる。ほら、貸して」



私の手を目敏く見つけた梓兄さんに手を取られ、白い息を吹きかけられる。



『っ……』



自分でするには何ともないその行為だけれど、他人にされるとかなり恥ずかしい。



「あー!!梓ずるい!!」

「椿。負けたんだから諦めろ」



顔や頭についた雪を払いながら彼らは話す。



『梓兄さん?もう大分温まったよ?』



いい加減恥ずかしいので離してください。椿兄さんはじーっと私達のほうを見てるし。棗兄さんはそんな椿兄さんを見て呆れてるけど、助けてくれる気配はないし。



「…そう?残念だな。もっと可愛い顔を見ていたかったのに」

『梓兄さん!!』



心臓に悪いので本当にやめてください。
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