第五衝突 【166ページ】
マンションまで車で送ってもらい、棗兄さんと別れた。部屋へ戻ろうとエレベーターで上がれば私の部屋のドアを背もたれに立っている風斗の姿が目に入る。
「おっそい。僕をいつまで待たせるつもり?姉さん」
『そう言われても…』
聞いてないし。勝手に私を待っていただけじゃないか。と言っても何か言われるだけだ。黙っておこう。
「まぁいいや。それよりさ」
ダンと壁に手をつけ、私を壁とその身体で挟む風斗。この体制はもしかして乙女が恋する壁ドン!?って、そうじゃなくて!!
『風斗?』
「何であんなスポ根野郎と一緒にいたわけ?」
『スポ根って棗兄さんのこと?ゲームのこと話してただけだよ』
棗兄さんスポーツしてたんだ。確かに朝の走り込みですれ違うこともあったもんなぁ。あまり触れてはいけないような気がしたから何も聞いてないのだけど。
「ふーん…ま、僕にはそんなこと関係ないけど」
『ふう、んんっ!?』
風斗と名前を呼びきる前に私の口は彼によって塞がれた。酸素を上手く吸い込むことができずに苦しい。そして空気が欲しくて口を開けた瞬間、口内に無遠慮に舌を入れてくる。
『ふっ、ぁん……あ、ふ…やっ』
チュクチュク響く水音が厭らしい。思わず耳を塞ぎたくなるのだけれど、両手は風斗に掴まれてしまっていて。それどころか身体中から力が抜けてしまって、専ら股の間にある風斗の脚で体を支えてもらっている状態だけれど。
「面白そうなことしてるわね貴方達」
冷たい声が廊下に響いた。
「何オカマ。邪魔しないでよ」
「ふーん。そんなこと言っていいんだ。これ何だと思う?」
そう光兄さんが私達に見せ付けたのは私と風斗がエロい顔してキスしている画像。音が鳴らなかったから分からなかっただけでシャッターを切られていたんだ。恥ずかしすぎる。私の表情も体制も、何もかもが。
「アイツらに見せたらどんな反応するんだろうね?それとも週刊誌にでも売っちゃう?人気アイドルのスクープって」
「ふざけるなよオカマ」
「ふざけてるのはお前だろ。餓鬼のくせに調子乗ってんじゃねぇよ」
何この人たち怖い。顔の整った人が怒ると怖いって言うけど、こういう人たちのことを指すのだろうなだなんて他人事のように思う。普段からは想像もつかないような低い声。
「…ふんっ」
どうしようかと私が考えている間に決着がついたようで、風斗がエレベーターに乗り込んで行った。
『えと、ありがとう?光兄さん』
「アンタ、早く部屋に戻りな。そんな顔したままだと取って食われるぞ」
へ?と間抜け面をしているであろう私を横目で見て笑いながら彼もエレベーターへと乗り込んで行った。…意味わかんない。
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