第五衝突 【163ページ】
学校も終わり、街を適当にぶらぶらしていた時だった。
「てめぇ何しやがる!!」
怒号が聞こえてきた。どうやら喧嘩らしい。男同士のものなら放っておこうと思ったのだけれど。
「あぁ!?そっちが先にぶつかってきたんだろうが!!」
侑介がそこにいた。侑介は1人で相手は4人。どう見てもフェアじゃない。
『仕方ない。加勢しますか』
さすがに4人同時には辛いだろう。そう思い、ひょいっと握り拳を浴びせた。ちょっと反則的だった?まぁ一応女の子だし、甘く見てよ。反射神経にも運動神経にも自信がけどさ。それに黒帯を持っているし。
「名前!?」
『侑介、加勢してあげる』
「お、おうっ。サンキューな」
侑介もこんな所でこんな場所でこんな事をしている場合ではないのだろう。素直にお礼を言う辺り早く終わらせたいのだということが伺えた。
「この糞女…!!」
本当は自分から殴るのって好きじゃないんだよね。手が痛むし。だから基本私の武器は足。蹴りって結構威力あるよね。
『…っ』
あっという間に1対2という構図が出来上がった。拳をかわして蹴りを入れる。蹴りをかわされては拳をかわす。
『ちぃっ…!!』
中々決らない。決れば一撃必殺並みの力を込めてるんだけど。それに急所を狙ってるし。
私と侑介は結局4人を地面に一度這いつかせて走って逃げた。気絶させたわけじゃないから追っ手こられる可能性があったから。後ろを振り返ってみたら男達を撒くことに成功したみたいだ。
『…あー、でもどうしようかな』
顔に殴られた傷が残っている。さすがに全てをかわしきるのは不可能だったのだ。中学の時とかよく男子に混じって喧嘩してたけど、今回は久しぶりだし、何しろ朝日奈家に来て初めてだ。よく我慢した方だよね、うん。ポーチに絆創膏が入っているのを思い出し、頬と鼻に貼っておいた。
『ほら侑介も』
「お、俺はいいよ」
『だーめ。絵麻が怖がるでしょ』
私より傷の多い侑介。さりげなく庇ってくれてたの知ってるんだから。避けれるか避けれないか、ぐらいの微妙なものを。
『ただいまー…』
「おかえり、あだ名ちゃん、侑介君」
「二人ともお帰り…ってどうしたの?それ」
『ちょっと、ね』
「痛そう…」
帰れば速攻で梓兄さんと琉生兄さんにバレた。頬を触れる琉生兄さんの手が時々切り傷に当たって痛い。
「侑介、何があったの?」
「あー…男が女を強引に誘っててよ。それを助けたら喧嘩ふっかけられて。名前も加勢してくれて何とか逃げたんだけどよ」
「はぁ?侑介、名前に喧嘩させたの?」
『ううん。私から入ったんだよ。侑介は悪くない。侑介、早く勉強してきな』
「お、おう…」
このままでは侑介が怒られてしまうと思い、逃がした。彼はそれよりもするべきことがあるから。躊躇いながらも部屋へと戻る侑介を横目で見ながら梓兄さんは私を見る。
「名前」
『はい』
「優しいのは分かってるけど、君は女の子なんだよ?ましてや侑介の喧嘩に入るだなんて…」
『ごめんなさい…』
「それで怪我は大丈夫なの?」
『殴られただけだから。大したことないよ』
「そういう訳にもいかないでしょ。女の子なんだから。琉生、見てあげて」
「うん。あだ名ちゃん、おいで」
『はーい。ありがとう、そしてごめんね』
「分かってるなら初めからしないでよ」
『侑介じゃなかったら放っておいたんだけど。いくらなんでも4対1なんて卑怯じゃない?』
琉生兄さんに怪我した箇所を丁寧に治療され。帰ってきた大人組から私と侑介は説教を受けた。比較的大人しくしてた方なんだけどな。中学の時とかよく男子に混じって喧嘩してたし。
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