第五衝突 【162ページ】
いよいよ合格発表の日。私は一人、城智大学にきていた。別にもう保護者同伴なんて恥ずかしいしね。祈織兄さんは大学内にいることだし。
『えっと、J0326…』
一つずつ目で探していく。心臓はバクバクだ。もしこれに受かっていたら。合格していたら絵麻と離れることになる。これで良かったんだよね…?
…J0320、J0324、J0326、J0327、J0330、J0331…
『…あった』
私は見事、合格していた。視線を感じてふと顔を上げてみると、校舎から顔を出している祈織兄さんと目が合った。大きく私は腕を使って○を作る。思いは通じたみたいで微笑んでくれた。家に帰って報告すると皆、喜んだり、ほっとしたり様々な表情をしてくれた。後は絵麻と侑介。頑張って!!
「じゃー合格祝いしないとだな★」
『もうしてくれたじゃん。それに絵麻たちと一緒でいいよ?』
「だーめ!俺達で合格祝いしちゃおうぜ★なー梓」
「うん。そうだね。名前がよければだけど」
…という訳で。推薦で合格した私は椿兄さんと梓兄さんに遊園地に連れてきてもらっていた。ジェットコースターに乗り、コーヒーカップに乗り、ゴーカートに乗り、乗り物を制覇するんじゃないかって勢いで乗っていく。遊園地って実は初めてなんだよね。お父さん、忙しくてあまりどこかに連れて行ってくれるということはなかったし。絵麻と2人ではそういう話にならなかった。2人ともが避けていたのかもしれないけれど。
「どう?楽しんでる?名前」
『うんっ!すっごく楽しいよ!!』
「よしっ★じゃー次はアレに乗るか!!」
『はーい』
次って言ったのは女の子たちが沢山乗っているメリーゴーランド。椿兄さんが言ったのにはちょっと驚いた。けど一回くらい乗ってみたかったし。馬に乗ろうとすれば、椿兄さんが手を引いてまるで王子様かのようにリードしてくれた。
「名前、もう少し前いける?」
『うん、大丈夫だよ?』
何だろうと前につめると、よっという声と共に椿兄さんが後ろに乗ってきた。
『椿兄さん!?』
「ほらほら、前向いてないと動き出すぞー?」
反論しようとしたところで動き始める馬。仕方なく私は前を向いて棒に捕まったのだけれど。当然その棒には椿兄さんも捕まるため、私の背中と椿兄さんの胸元が密着する。かといって前に進めば馬から落ちてしまう。耳元にかかる吐息、そして背中から伝わる体温に羞恥して下を向いていたらいつの間にか馬の動きは止まっていた。
「椿、やりすぎだよ」
「えへ、ごめーん★」
「大丈夫?名前」
『うん』
心臓がまだドキドキ言ってる。距離が近すぎるのはどうしてもなれないんだよね。それからは普通に戻って。キャラ耳のついたカチューシャをつけたり、ポップコーンを買ってもらったり。至れり尽くせりだ。
「最後はやっぱ観覧車っしょ★」
なぜか私の両隣を陣取る二人は放置して、景色を眺めた。ライトアップされた街が視界に広がる。まるで宝石箱をひっくり返したようだ。
『…綺麗』
「ねぇ名前、知ってる?」
「観覧車の天辺でキスしたカップルは結ばれるってジンクスー」
「「だから…」」
不意に両手を取られて、手の甲にキスされる。
『なっ…!?』
もうそれからは景色どころじゃなかった。
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