第一衝突 【14ページ】
大きなお風呂から上がるとなにやらリビングから声が名前の耳に聞こえてきた。この声は、椿兄さんと梓兄さんだろう。
「俺、どうしてもお前に伝えたいことがあるんだ。俺たちってずっと一緒だったじゃん」
「そうだね」
「でも最近、お前と一緒にいるとなんか心臓がバクバクしておちつかなくて。お前が他のやつと仲良くしているとむかつくし」
「へ?」
「俺、お前が好きだ。俺のものになってくれ」
聞き耳を立てたわけではないが、聞こえてきた内容はそれなりに衝撃だった。男同士としては何となく距離が近いなぁとか思ってたけど、名前と絵麻との距離も相当だと自覚しているからあまり深く考えなかったのだ。
『部屋、戻ろうかな』
あまり聞いてよさそうな内容でもないし。部屋へ戻ろうと思った名前だったが、薄暗かったため、何かを蹴飛ばしてしまった際に音を出してしまった。
「何の音ー?」
そう言って二人は階段を上ってき、名前が聞いていたことがバレてしまった。
「名前だったんだね。具合はどう?」
「起きてて大丈夫なのー?」
『あ、はい。ご迷惑をお掛けしました』
私を最初に見つけてくれたのは彼らだと聞いた。きっと倒れていたから驚いただろう。本当に絵麻じゃなくて良かったと思う。そんなことよりも…
『あ、あの』
「君、顔真っ赤だけど?」
「まだ熱があるんじゃ」
『違っ』
「じゃあ何か必要なものでも?」
言い出すにしてもやっぱり恥ずかしくて言い淀んでしまう。
「分かったー、一人で眠れないとか?だったら一緒に寝てあげるよ★」
「本当に何でも言ってね」
「兄弟なんだからさ」
兄弟、かぁ。今まで絵麻しかいなかった私は兄との接し方なんて知らない。自分より年上の家族との接し方だなんて知らない。
『ありがとう、ございます』
黙っているほうがフェアじゃないよね。もういいや、気になるし聞いちゃおっと。
『あの、先ほどの会話が聞こえてしまって…』
「会話?あぁ、そういうこと」
「なるほどねー」
椿は口に三日月を浮かべ、言葉を続けた。
「そうなんだよ、俺、もう我慢できなくてさ。梓に告ったとこ」
やっぱり告白だったんだ。お邪魔しちゃったな。
『すみません』
「いいのいいの。俺ら相思相愛だし。ね、梓」
「椿」
ちゅっと梓に椿は口付ける。梓は梓で抵抗しない。初めて見た生キスに真っ赤になり、廊下へと逃げようとしたところ梓の声が聞こえてきた。
「ごめんね。僕たち台本の読み合わせをしてたんだ」
『台本?』
「そ、次の仕事の練習」
『練習?』
えーっと?話が読めない。頭に?を浮かべているのが分かったのか梓兄さんは教えてくれる。
「声優なんだ。僕たち」
声優…ってことはアニメの声やゲームの声の人?長男は医者、次男は弁護士、三男はホスト(僧侶とは認めない)、五男と六男は声優で八男は美容師、十二男はアイドルだとか何この家族。みんな顔だけじゃなくてハイスペックすぎるでしょ。
…あ、一人違う奴がいたわ。侑介っていう同い年の奴が普通なくらい?
『すみませんでした。お仕事の邪魔してしまったみたいで』
壮大な勘違いをしていたと分かって、すごく恥ずかしい。
「いいって。それより次は名前が練習に付き合ってくれない?」
『えっ…』
「なーんて嘘嘘★病み上がりなのにごめんね」
そう言って頭をぽんぽんする椿兄さんと梓兄さん。そんなことをされたのは久しぶりで何だか恥ずかしい。
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