第五衝突 【153ページ】

文化祭の準備をしていた今日の放課後。私はクラスの方の衣装ができたから試着してくれないかと言われ、王子の衣装を着ていた。肩より伸びてしまった髪を後ろで下のほうで一つに結い、白い学ランをイメージさせるような姿は本当にどこかの国の王子みたいだ。



『こんな感じだけど、どう?』

「名前君、カッコいい!!」

「似合ってるよー名前君」

「いいんじゃねーか?」



自由気ままにコメントするクラスメイト達。批判は特にないらしい。それならば本番はこのままだろう。



『あ。ごめん、部活の方に行ってくるね』

「うん。お疲れ様ー」



一言断りを入れてから水泳部のほうに向かう。そろそろ部活が終わって文化祭の準備をする頃だから。部室の方へと向かっていたのだけれど、丁度1年生の教室前の廊下を走っていれば私を呼ぶ声がした。振り向くと案の定、風斗で。何やら吸血鬼のような格好をしている。



『なーに、風斗。私、急いでるんだけど』

「姉さん僕のこの格好みても何の反応もないの?」

『えー…カッコいいって。うん』

「棒読みすぎでしょ」



これでも駄目なの?一応空気読んで言ったんだけど。廊下では目立つからと、階段の影になる場所に連れてこられたし。もう一体何なのさ。



『風斗くーん?私、忙しいんだけど』



今から部活の方の演技の練習しないといけないんだけど。どうやら掴んでいる私の腕を離す気は全くないらしい。さらに強い力で引っ張られ、私は風斗の胸に飛び込む形に抱きついた。



『ちょっ、ちょっと風斗!?』

「姉さんが悪いんだからね」



チクリとする甘い痛み。あ、これ知ってる。苗場に行ったときと同じ痛み。



『んっ…風斗!』



どうにか風斗を引き剥がすことに成功した私は彼から距離を取りながら睨み付けた。けれども、そんなこと大したことではないとでも言うように風斗は含みのある笑みを浮かべている。



「ごちそーさま。お姉さん」
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