第五衝突 【152ページ】
今日も今日とて家に帰ってから椿兄さんからの指導を受ける。けれど、いつの間にか私がヒロインを椿兄さんがヒーローを演じるようになっていた。
『えーっと、椿兄さん?いつの間に入れ替わっ…っ!?』
肩をつかまれて、抱きしめられて、気が付いた時には椿兄さんの顔がすぐそこにあって。抵抗する間もなく、彼にキスされた。
『つば、き、兄さんっ…んんっ!?』
後頭部を手で押さえつけられているため、逃げることができない。酸素を求めて開いた口からヌルリと椿兄さんの舌が侵入し、いともたやすく私のソレと絡め取られる。ヌチュヌチュと響く水音が厭らしい。どうして。どうして。どうして。先程までは普通の兄妹だったのに。どうして豹変してしまったの?強引で優しいキスをしないで。そうでないと私は落ちてしまう。溶けていってしまうだろうから。
『っあ、ん…や…ぷはっ』
やっと解放されて酸素をこれでもかどいうほど吸い込む。どちらのものか分からない涎が口元を汚していた。距離を取り、口を拭きながら逃げようとしたのだけれどソファーに押し倒された。
『やだっ、椿兄さん…!!』
「名前、好きだ。好きなんだ」
真剣なその瞳と声色。そして頬に手が添えられる。
「絶対に誰にも渡さない」
そう言われて、またキスされると思った。けれども予想したものはこなくて。恐る恐る目を開けてみると梓兄さんに腕を掴まれている椿兄さんが目に入った。
「椿、自分が本読みに付き合ってくれって言ったの忘れたの?」
「俺こそ梓に行ったよね。譲らないって。分かっててやってんの?」
「分かってるよ。でも、今日はもう部屋に戻った方がいい」
しばらく2人は互いに睨み合っていたけれど、分かったよと椿兄さんは私の上から退いてリビングを出て行った。
「…大丈夫?」
『まぁ…』
「部屋に戻った方がいい。僕には椿を叱る権利なんてない」
『え?』
「僕も椿と同じだから」
ソファーから立ち上がったのに、また梓兄さんに押し倒されてしまい逆戻りだ。
「ねぇ、名前。この痕はどうしたの?」
私は咄嗟に首筋を隠した。制服の襟でぎりぎり隠れるかな、と思っていたのに。こんなに簡単にバレてしまうだなんて。
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