第五衝突 【145ページ】





『絵麻』

『えーまっ』

「絵麻ーっ』



「…」




スタスタと私の元から離れていく絵麻。けれど今日は何かが違った。



『絵麻、ちょっとおいで』



無理矢理腕を引っ張って、私の元へ振り向かせる。額同士を合わせるとやはり熱が出ていた。



『すみません、雅臣兄さん、薬ありますか?後で絵麻の部屋に持ってきて欲しいんですけど』

「え、あ、うん。後で届けるよ」

『ありがとうございます。ほら、絵麻行くよ』

「…ぅん」



絵麻の手を引いて彼女の部屋へと向かう。繋いだ手もやっぱり熱くて。どうしてこんなになるまで気付いてあげられなかったのだろうと後悔した。



「すげー…なんで分かったんだよ」

「いつも通りみたいだったよね」

「さすが名前ちゃん。妹ちゃんのことをよく見てるね」



そんなことを兄弟達が呟いていたことなんて知らなかった。










『もう、どうしてこんなになるまで放っておくかなぁ』

「ごめんね、お姉ちゃん」

『ううん。私にも原因あるから』



すぐさま暖かい格好をさせて布団に潜り込ませる。夏だから汗をかかせないように注意しながら。暫くすると雅臣兄さんが薬とお粥を持ってきてくれた。



『絵麻、ご飯食べれる?』

「…ん」



軽く口を開け、ご飯を待つ絵麻の姿はとっても可愛い。こんな姿を男に見せたらイチコロなんだろうなぁ。全て、とは言えないけれどほとんど食べてくれて助かった。あとは薬を飲んで眠るだけだ。



「…薬、飲まないと駄目?」

『駄ー目。ちゃんと飲まないと』



絵麻は薬が苦手だ。カプセルとか錠剤とかは特に。駄々をこねるようになるから飲ませるのに一苦労。



『ね?お願いだから』

「…お姉ちゃん、一緒の大学に通ってくれる?」



それはずるい。うん、なんて言ってあげられるわけないんだ。無理矢理私は話題転換を図った。



『絵麻が食べたいって言っていた限定品のプリン買ってきてあげるから』

「…本当?」

『うん』



プリンで何とか絵麻は薬を飲んでくれた。一つ500円くらいするものだけど、うん。絵麻が元気になってくれるのが先。絵麻が眠ったのを確認し、頭の上に乗せている水で濡らしたタオルをまた冷やし直して、私も眠りについていった。
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