第五衝突 【143ページ】



「本当にいいんだな?名前」

『はい。もう決めたことですから』

「そういうのなら先生からは何も言わないが。保護者さんも了承済みですかな」

「彼女の意志を尊重しようと思います」



三者面談に来てくれたのが雅臣兄さんでよかった。本当にそう思う。何も伝えずに私は三者面談を迎えたのだから。突っ込まれたり、何か聞かれても仕方なかったし。



『…雅臣兄さん、私に何も聞かなくていいの?』



帰り道、心苦しくなった私はついに聞いてしまった。笑顔で話しかけてくれていた雅臣兄さんの表情が固くなるのを感じる。



「名前ちゃんが悩んで出した結果でしょ?別に文句を言ったりしないよ。ただ他の兄弟たちはどうか分からないけどね」



はは、と困ったように彼は笑う。

そうだ。肝心なことを伝えていない。とても大切な、大事な人に。たとえその人を傷付ける結果になってしまっても。これが私の悩んで出した答えだから。きちんと話さないと。





『絵麻には、夕食後、きちんと話します』



逃げちゃ駄目だ。しっかり二本の足で立たないと。頭が重くならないこともないけれど。



夕食後、雅臣兄さんに言った通り私は絵麻の部屋を訪れていた。けれども切り出しが分からずに、沈黙が部屋を包んでいる。



「お姉ちゃん?どうしたの?」

『絵麻、落ち着いて聞いてほしいのだけれど…』



そして話した。妹である絵麻に。自分は城智へ行くつもりだということを。



『推薦貰ってね。水泳で強くなるためにはこっちの方がいいと思うんだ』



スカウトに来た人は良さそうな人だった。見学に行ってみたときもその人が対応してくれたし、かなりの好感度。



「そんな…じゃあ、高校を卒業したら別々になっちゃうの?」

『大学はね。別に家を出たりはするつもりないし、なるべく今まで通り過ごすつもりだけど』

「嫌だ!お姉ちゃんと一緒がいい!!」

『絵麻………』

「私は、お姉ちゃんと一緒の大学に行きたい!!」

『あ、絵麻っ!!』



絵麻は走り去ってしまった。残されたのは私と絵麻が飼っているリスのジュリだけ。



「あだ名は悪くない。ちぃがどうしても姉に甘えてしまっているのだろう」

『でも、そうしちゃったのは私だし…』

「ええい!落ち込むな!!お前が落ち込んでいると調子が狂う!!」

『…ジュリ、ありがとね』



慰めてくれて。ジュリの頭を撫でてから、私は自分の部屋へと戻った。絵麻を追いかけるにもどこに行ったのか分からないし。リビングで鉢合わせするのも気まずくてそのまま寝てしまった。
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