第五衝突 【141ページ】

部活でも祝賀会が開かれて、夜遅くなった私はくたくたなままリビングへと入った。



『ただいまー』



返事はない。まぁそうか、電気が消えてたもんね。私がつけたのだから誰もいなくて当然だ。だと思っていたのだけれど。台所に行こうとして驚いた。近くのソファーに椿兄さんが項垂れるように座っていたから。いつもの元気がないのは明らかだった。



『椿兄さん。どうしたの?』

「…あれ、名前、お帰り」



テンションも低い。もはや誰、って聞きたいくらいに。その時ふと台本らしき本が目に入った。裏表紙だったから何の台本かは分からなかったけど。



「…俺にさ、梓の代わりにオファーが来たんだ。例のアニメの」

『すごいじゃん。椿兄さん』

「うん。でも、駄目だ。梓ならもっと上手く演じられる。俺には到底できない演技をする。そう思ったらどうしても、さ」



双子の兄達にいざこざを持ち込んだアニメのオファー。最終的には梓兄さんが仕事を受けるということで終わったのだけれど、彼が倒れてしまい入院してしまったため、代役が椿兄さんに回ってきた。



『………椿兄さんは梓兄さんじゃないよ?』

「へ?」

『椿兄さんは椿兄さんだもん。梓兄さんのほうが演技力が上だとしても、椿兄さんの演技に魅力がないわけじゃないでしょう?だから梓兄さんの真似するんじゃなくて椿兄さんの演技をすればいいと私は思う。梓兄さんの真似してる椿兄さんなんて格好悪い』



ただただ一方的な願いなのかもしれないけれど。椿兄さんを待っているファンだって絶対にいるはず。その人たちを裏切ってはいけない。ファンが待ち望んでいるのは椿兄さんの演技であって、梓兄さんの真似をしている椿兄さんじゃないはずだから。



「そうだよな。ありがとう、名前。名前のおかげで俺の悩みふっとんじゃった」



急に立ち上がって、私の手をとる椿兄さん。その瞳は輝いている。もう大丈夫だろう、彼は。



『頑張ってね。そのアニメ、楽しみにしておくから』



椿兄さんはおーまかせろ★なんて言って部屋へと戻っていった。彼の瞳は輝いていた。

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