第五衝突 【138ページ】



『はぁ・・・』



正直に言おう。私は絵麻と一緒にお見舞いに行ったあの一回きり梓兄さんの元へと行けなかった。部活が忙しく、その後では外は真っ暗。病院へ向かえば面会時間を過ぎていることが多々あった。



『梓兄さんには悪いのだけど、水泳に集中しないといけない時期だし…』



三年には来年が無い。今年で最後なんだから。悔いの残らないように頑張りたいと切実に思う。

今日もまた兄弟の誰かがサンタになってくれたのだろうゴーグルをつけて泳ぐ。速く、速く。昨日よりも、今までよりも速く。



「日向、今年はどれに出場するつもりなんだ?」

『だいたい去年と同じにするつもりですけど…』

「なら、フリーの100と200。それから個人メドレーとバッタの100でどうだ?今年はリレーに出たがっている奴が多くてな」

『かまいませんよ。分かりました』



また今日も遅くなっちゃった。陽は長くなっているはずなのに、帰る頃にはもう真っ暗だ。



「おい、名前?」

『棗兄さん』



プップーと車の音を鳴らされたと思ったら、運転手は棗兄さんだった。やった、と助手席に乗り込む。



『助かったよー棗兄さん』

「ちゃっかり乗り込みやがって」

『家までお願いしまーす』

「ったく調子いいなお前」



えへへ、と返事する。仕方ないじゃない。これが私の取り柄なんだから。
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