第五衝突 【132ページ】

5月22日、丁度1年前に皆と出会い、家族となった。



『もう一年か…』



色々あった一年だったな。絵麻と二人暮らししていた頃では経験できなかったような事をたくさん知ることができた。絵麻とも初めての喧嘩もしたし。ふわぁ、と大きな欠伸を一つ。夏の大会に向けて水泳部はもう始動し始めていた。



『新入生、結構入ってくれたし、ね』



二桁も入ってくれたら水泳部としては満足だ。速さもこれから鍛えていけばどうにかなるだろう。



『んー、来週はもう体育大会かぁ』



高校最後の体育大会。きっとこれが人生で最後の体育大会。



『頑張らなきゃ』



走るのは嫌いじゃないし。ただ泳ぐことの方が好きってだけで。走る時間増やそうかな。なんて思いながら夢の中へと誘い込まれた。侑介と風斗がお互いカッコいいところを見せるために頑張っていたのを知ったのは体育大会当日だった。

体育大会当日。絵麻は実行委員か何かで皆とは違うテントの方へと行ってしまった。そしてその絵麻の姿をカメラで追う怪しい人影。保護者席にいるけど、スーツだしどう考えても不審者じゃない?



『…何してるの棗兄さん』

「おわっ!?なんだ名前か。驚かせるなよ」

『棗兄さんが不審者っぽいことしてるからでしょ』

「え、不審者?」

『うん。すごい不審者っぽいよ。スーツだし、カメラで女子を追いかけてるし』



不審者に近づいて分かった。正体は棗兄さんだってことに。どうやら反対側にある保護者席ですごく目立っていた兄弟達も気付いたらしく、こちらに向かって歩いてきている。これ以上目立つのはやめて欲しいんだけど。って言っても無理だろうから棗兄さんから離れた。もうそろそろ出番でもあったし。



「名前ー、おめっとー★」

「おめでとう名前」

「妹ちゃんすごいねぇ」

「おめでとう妹さん」

「1位なんてすごいね」

「名前、腕の振りが甘い。もっと手を軽く握って走るんだ」

『はーい、分かった。次から注意して走ってみるよ棗兄さん』



クラスのリレーに出て、個人競技にも出た。次は借り物競争だ。



『…えっと、金髪の人、か』



応援に来ている要兄さんと棗兄さんの顔が浮かんでくる。どっちか、だったら棗兄さんかな。兄弟達の元へと急ぎ、棗兄さんの手を引っ張って次のお題へと向かう。金髪の人と手をつないでって書いてあったんだもん。ちょっと恥ずかしかった。



「おい、名前?」

『棗兄さん、悪いけど協力して』



ぎゃーぎゃー後ろで騒いでいる声が聞こえてくるけれど、それを無視して走った。



『次は…メガネを掛けた人とお姫様抱っこ。先程のお題をしたままで、だって』

「メガネってことは梓か?あいつしか今メガネ掛けてる奴いねーしな」

『うん。でも、お姫様抱っこって…』



超絶遠慮したい。何故に棗兄さんと手をつないだまま、梓兄さんにお姫様抱っこされなくてはならないのか。それに梓兄さんは線が細いから私なんかを抱いたら折れてしまいそう。けれど勝たないとクラスメイトが怖いし…。



『梓兄さーん』



説明すれば、軽々とお姫様抱っこされる。いきなり身体が浮いたことにより、梓兄さんの首にしがみついてしまった。



「積極的なのは嬉しいけれど、いいの?名前」

「お前、確信犯だろ。絶対」



梓兄さんから離れた私の顔は真っ赤だったと思う。後は簡単な問題だったから容易に終わらせることができた。



『協力ありがとう梓兄さん、棗兄さん』

「どーして俺を選んでくれないんだよー名前ー」

『だってお題と合わなかったんだもん』

「なら俺は俺は?俺も金髪だよ?」

『ごめんなさい、忘れてましたー』

「棒読みすぎないっ!?」



涙目になっている要兄さんと椿兄さんが目に入ったけれど、絵麻が出る順番だから放っておいた。



絵麻と右京兄さんの作った美味しいお弁当を食べた直後は部活動リレー。ユニフォーム姿で出るため、私達水泳部は水着姿だ。さすがに寒いから上だけジャージを着ているけど。



「今年は負けねぇからな」

『そう言って去年こてんぱにされたのは誰だったっけー?』

「覚えてろよ名前」



サッカー部の和馬は丁度コースが隣。去年はバスケ部と陸上部の一騎打ちで、その後ろに水泳部とサッカー部が争ってた。今年は勝ちたいなー。



リレーは去年と同じような順番でバスケ部と陸上部を追う私の後ろを和馬が走っている。えっと、腕をもっと振って軽く拳を握って…。棗兄さんから貰ったアドバイスを思い出しながら走っていた。



「そこだ行け名前ー!!」



丁度最後の100mほどになったところで声が聞こえた。その声を頼りに我武者羅に私は足と腕を動かした。次に感じた感触は白テープを切るもので。勝ったのだと分かった。



『やったぁ!!』

「よくやった名前!」

「頑張ったわね名前!」



同級生の水泳部から栄光を称えられる。髪を触られてぐしゃぐしゃだ。でも今回だけは気にならなかった。絵麻が微笑んでいるのに気付いて私は満面の笑みとピースを送った。
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