第五衝突 【130ページ】
一年生の入学式が始まり、教室へ戻る前に桜の木でも見ようかなと裏庭の方から回ったのが間違いだったのだと思う。木の陰で隠れるようにして寝ている風斗を見つけちゃったんだ。
「ん…んん」
『風斗?そんなところで寝てたら風邪引くよ?』
軽く肩をゆすってみても反応ナシ。どうしようかな。このまま寝かせるわけにもいかないし。
「…駄目だよ、姉さん」
『ん?』
「駄目。そんなことされたら僕、我慢が、できなく、なる…」
寝言?って言うかどんな夢見てんのよ!!何だか起こすのも馬鹿らしくなって、風斗のことを放っておいて教室へ戻ろうと引き返したとき、腕をぐいっと掴まれる。
「どう?僕の演技力」
『やっぱり演技だったのね。風斗、入学式は?』
「つまんないから出てきた」
気持ちは分かるけどさ。式典くらいちゃんと出ようよ。余計なことを考えていたからだろうか、桜の木と風斗に身体を挟まれてしまっていた。
「ねぇ知ってた?僕、背が伸びたんだよ。だからあんたをこうやって見下ろせる」
確かに風斗は背が高くなっていた。初めて会ったときは私の方が大きかったのに。いつの間にか抜かされてしまっていた。
『風斗、離して』
「嫌だね。離したら逃げるでしょ。姉さんは」
掴まれている腕に力が込められて痛い。手もいつの間にか大きくなっていた。
『どうしても離さないっていうのなら』
仕方ない。私は風斗の足の間にある膝を思い切り振り上げた。風斗の力が弱まったことを確認してそこから抜け出す。
『私を甘くみないで。守られなくても一人で大丈夫なんだから』
未だに蹲り、痛みを耐えている様子の風斗に言う。さすがにちょっと可愛そうだったかなーなんて思いながら。私は振り返ることなく教室へと戻った。
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