君は昨日のことのさえ知らないと言った







「名前ちゃん、一緒に蜜柑食べよう」



いつも通り、何の前触れもなく名前ちゃんの部屋を開けた。彼女が両手に刀を構えようとしているところを見ると敵襲だと思ったのか。



「ほらほら、僕は君に何もしないから。そんな怖い顔しないの」



そう言うと安心したかのように刀を潔く離した。珍しいな。今まではいきなり開けても襖の前に立った時点で彼女は気配を察していた。僕は気配を消しているというのに。平助や新八さん、一君にだってばれない自信があるのに。



『申し訳ありません。少々眠っていたものですから、寝惚けてしまいました。蜜柑、ありがとうございます。お茶入れてきますね』



ふーん・・・名前ちゃんが昼寝をするのは珍しいけれど、夜は寝つきが悪いのかあまり眠らない。その言葉はあながち嘘ではないだろうと結論付けた僕は特に疑問に思うこともなく流した。

名前ちゃんがお茶を入れて戻ってきて蜜柑を剥く。僕の動作を見ながら名前ちゃんも同じように蜜柑を剥いていく。白い部分を取るのが面倒だから僕は基本取らない。彼女は気になるみたいで一生懸命になっているけど。少し眉を寄せて口がいつもより咎っている。その表情がまた可愛い。

そういえば彼女はこうして僕が何かを買ってきて一緒に食べようと言えば必ず食べているけれど夕食はきちんと食べれているのだろうか。食の細い彼女だから心配だ。確か幼少期に碌に食べられなかったせいだって言ってたっけ。・・・それは僕もなのかもしれない。他の皆と比べて僕は食が細い。名前ちゃんが来てからは彼女のほうに目が行きがちだけど、僕もその影に隠れて量を減らしたりしていた。特に最近までは調子が悪かったから特に。



「昨日は金平糖だったから、今日は少し酸っぱい方がいいかなって蜜柑にしたんだ」

『昨日はお団子では…いえ、何でもありません。ありがとうございます』



君のとぼけた表情に気付けなかった僕は愚か者だったんだろうね。



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